新版 実践 縫合の基本テクニックiii 怪我や急病は待ったなし.時間外は患者さんも医者を選んでいる余裕もなく,当直医や研修医に創の縫合をされることが多い.外科系をローテーションして手術室で筋膜をこれでもかと引っ張って縫い合わせる経験は積めても,実際の救急外来では微妙なテンションで縫合を置いていき美しい創に仕上げないといけない.後日,外来に創フォローに回すと,創縁が合っていない,死腔ができている,糸が食い込み過ぎているなどと,後医が困り果てるようでは,同僚からも嫌われちゃう. 私のような古狸先生も昔ピカピカの研修医だった(今は頭がピカピカになりつつあるのがなんとも寂しい……)ときには,手取り足取り,実臨床現場で上級医に膝蹴りや頭突きをされながら,縫合の基本をまさしく文字通り叩き(殴り? 蹴り?)こまれたものだ.そんなの,今ならパワハラで訴えられてしまうよねぇ. 本書を読むと,確かに「あるある」ピットフォールやコツが丁寧に記載されている.そう,本書を手にしたあなたは殴られないし,蹴られなくても,縫合技術を上げることができるというのは画期的じゃないですか.「確かに」「その通り」という基本をきっちり押さえて,将来,目の前の患者さんには美しい縫合で治してあげようではないですか. 手縫いより簡単そうに見える器械縫いも,糸のテンション次第で見た目の悪い傷跡になり,力を入れる方向や針を把持する部位が悪いと針が曲がってしまうのは,経験者なら当たり前の注意点だが,初学者には実にありがたい,失敗しないためのヒントがところどころ記載されている.本書の写真と照らし合わせながら丁寧に読み進んでいくといい.ところどころにあるこぼれ話では,まるで横に上級医がいて縫合法を教えてくれるような錯覚に陥るはず.山の中で針付き縫合糸がなくても,釣り糸と18Gの針を応用すれば仮の縫合は可能だなんて,すごく素敵じゃない? また左利きのための縫合のコツ,入れ墨がある場合の縫合法など,読んでいても楽しい内容がちりばめられている. 今回の改訂で,皮膚モデルはより人の皮膚に近い素材感に仕上げ,耐久性も向上した.半永久的に使えるので,何度も縫合の練習をしてもらいたい.皮膚も単純な平たいものと曲面の2種類を用意した.もうバナナや豚足で縫合の練習をしなくてもいいんだ. 丁寧に順序立てて記載した著者たちのおいしいところ取りをして,読者が縫合の基本を着実に学ぶことは,ひいては患者さんにスタンダードオブケアを提供することになるから,一人一冊持っていてもいいんじゃないかしら?福井大学医学部附属病院 林 寛之監修のことば
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