iv新版 実践 縫合の基本テクニック 昨今の医学教育は座学に加え実技が重視されつつある.医療が実践的な技術である以上,その訓練は必要である.大学医学部で教育する側に立つと,医学知識を与えるよりも,縫合などの単純な技術を教えることのほうが苦労することに気づく. この本の企画は,教育者としてのニーズがあり,良い縫合練習用の皮膚モデルの開発なしには実現しなかった.実のところ,私自身も小中学生の時に頭部に2カ所,顔面に1カ所縫合された跡がある.縫合したのは休日救急センターの若い医師であったことを覚えている.その彼がどれほどの技量であったかは想像できないが,今でも鼻唇部に瘢痕が残っている.研修医の彼が最善を尽くしてくれたことには感謝するが,もう少し上手に縫合できなかったのかとも思う. 医学教育においては学生同士の実技練習や動物を用いた実習があるが,限界もある.縫合練習の必要性はだれもが認識しているが,「練習機会」と「練習器械」が少ない.全身麻酔下での予定手術において医学生,研修医に教育をすることは可能であるが,実際の外傷とはまったく局面が異なる.暴れる患者,痛がり泣く幼児,交通外傷で多数の顔面切創の患者,引き裂かれた傷など,実地臨床では縫合処置の難易度は格段に上がる.傷の形状も異なり,いわば一期一会の創傷である. 医学生,研修医が臨床現場で困らないように,2013年に簡便な皮膚モデルを作製し,おかげさまで好評を博したが,今回,素材を含めて一から見直し,より実用的なキットが出来上がった.事前に十分練習し備え,実際に縫合後も再現し反省しながら,技術を取得していってほしい.どんな不器用な人でも練習で必ず一次縫合ができるようになり,実地でビビることなく処置ができることは間違いない.がんばってほしい.加賀市医療センター 北井隆平 医師になってから20年以上になるが,今でも皮膚縫合がきれいに決まった日は1日中晴れやかな気持ちになり,イマイチの出来栄えになってしまった日はどんよりした気持ちになる. この本を手に取っていただいた読者の皆様には,皮膚縫合が終わった後に晴れやかな気持ちになってほしいと思っている.そのためには,この本に書かれた内容を頭でしっかり理解することも大事だが,とにかく手を使って練習してほしい.実践の前に,1針でも2針でも付属されている皮膚モデルで縫合練習をして手のイメージを作れば,臨床の結果も必ずよくなるはずである. 救急外来をはじめ,さまざまな医療現場で自信をもって皮膚縫合に臨まれることを期待している.福井大学医学部附属病院 中井國博序 文
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