はじめに 教育に関するテキストは多々あるが、あまり役に立たないものが多く、かつ、つまらない。 アンリ・ベルクソンの著書に『笑い』というものがあるが、これがあまり面白くない。また、読んでも人を笑わせるようにはなれそうもない。ベルクソンが悪いのではない。彼は真摯にモリエールなどの古典的な喜劇作家の笑いの構造を分析し、解説した。しかし、本書を読んだからといってモリエールのような喜劇を書いたり、演じたりできるわけではない。まさにE.B.ホワイトが述べたように、「ユーモアの分析はカエルの解剖のようなものだ。興味を持つ人はほとんどいないし、カエルはそのために死ぬ」のだ。 医学教育のテキストもそういう共通項があり、「分析と解説」はしっかりしているが、実践の書としては弱いことがほとんどだ。研修医や学生の具体的な教育方法もどこか「硬く」、血肉が通っていない。悪名高い指○医講習会のロールプレイが嘘くさいのもそのためだ。 本書は、理論の解説書ではなく、現場の実践の書である。そして、「ノーと言わず、イエスと言う」書でありたいと思っている。「これはタブー」「あれはやるな」と、教育界はネガティブ・タームに満ち満ちている。学生や研修医、ナースたちには褒めろ、褒めろと言っておきながら、指導者はダメだ、ダメだの連呼なわけで、こんなダブスタじゃあ、現場はやってられない。指導医だって、褒めなきゃあかんのだ。 とはいえ、「生きているだけでいい。人間だもの」みたいな、みつを的な白々しいポジティブ・コメントも気持ち悪い。 というわけで、本書は「結局、どうすればいいの?」な指導者向けの、愛情たっぷりなポジティブ実践書だ。どのくらい実践的かは、ぜひお読みいただいてご判断いただきたい。ん? そのわりには指導医のオオベ先生はボコボコにされてないかって? いやいや、その根っこ、背後にあるところをちゃーんとご覧くださいませ。2019年7月神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座 感染治療学分野 教授岩田健太郎注 本書はブログ「楽園はこちら側」の連載をもとに単行本として加筆、再構成したものです。
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