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脊椎・脊髄損傷の初期治療脊椎外傷患者が運ばれてきたらまず何をするのか1第1章13直後から対麻痺や四肢麻痺,四肢の知覚異常があり,外傷による脊髄病変の存在が強く疑われても,脊柱管の除圧や固定には相応の時間が必要で,初期診療の段階で確実に対応することは困難である.時間をかけて神経障害を改善するための処置を行っている間も,呼吸や循環が不安定であれば,低酸素血症,脳灌流低下による二次性脳損傷が助長され,結果的に予後不良になってしまうため,ABCの評価と改善が優先される.評価する項目とその結果に基づいて判断すべき内容・処置を表1に示す. JATEC™のprimary surveyは,ABCDE アプローチと要約される.脊椎・脊髄損傷が疑われる外傷患者を診察するときは,主訴や受傷機転にかかわらず,まず呼吸と循環の状態を評価し,次いで意識レベルを確認する.病歴聴取や麻痺・知覚障害・反射の診察は,生命維持のための生理学的機能が保たれていることを確認した後に行う.point1. 気道の開放(A)と呼吸管理(B) 意識障害を伴う患者は仰臥位で舌根沈下による気道閉塞をきたすことがあり,顔面外傷や頚部外傷を伴う患者も気道障害を併発している可能性がある.確実に気道確保を行う第一選択は経口気管挿管であり,外傷初期診療では,①無呼吸・死戦期呼吸,②吐物や血液による誤嚥の恐れ,③喉咽頭損傷・顔面外傷・頚部腫脹などによる気道閉塞,④酸素投与により改善しない低酸素血症,⑤補助換気を要する高二酸化炭素血症,⑥輸液で対応できない重症出血性ショック,⑦グラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale:GCS)8以下の重症意識障害の場合,速やかに実施することが推奨されている.経口気管挿管を行うために喉頭展開する場合は頚椎保護に留意する(図2).経口挿管が困難で,しかも重篤な低酸素状態や換気困難で,緊急を要する場合は,外科的気道確保が必要になる.定型的な気管切開術は,術野の展開に時間がかかるため,気道緊急の処置としては不適切である.成人に対する緊急外科的気道確保は,輪状甲状靱帯切開を選択するが,12歳以下の小児には禁忌である.primary surveyで診察すべき生理学的所見表1 診察項目判断と対応A(Airway)発語・発声の有無用手気道確保,口腔内吸引,気管挿管の要否を判断口腔内B(Breathing)呼吸数酸素投与,バッグ・バルブ・マスクでの補助換気の要否,気管挿管の要否を判断,致死的胸部外傷の有無を判断胸郭の挙上経皮酸素飽和度(SpO2)頚部・胸部の身体診察,胸部単純X線C(Circulation)脈拍,心拍数初期輸液,輸血,止血処置,止血手術,致死的胸部外傷に対する緊急処置(胸腔ドレナージ,心囊穿刺など)血圧四肢末梢冷感の有無創部の外出血FAST胸部・骨盤単純X線D(Dysfunction of CNS)意識レベル脳外科医への連絡,頭部CTE(Exposure and Environment control)体温保温脱衣して全身観察

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