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14 外傷初期診療における呼吸の評価は,まず胸郭の動きを見て,呼吸数と呼吸様式を観察し,頚部および胸部を触診して皮下気腫や肋骨の動揺,圧痛の有無をみたうえで,呼吸音の左右差がないかを聴診,気胸・血胸を疑う所見がないかどうか打診により確かめる.これらの診察により,フレイルチェスト,緊張性気胸,開放性気胸,大量血胸などの致死的胸部外傷がないことをすべての患者で確認しなければならない.頚髄損傷症例で特に注意すべき観察項目は,胸郭挙上の有無とSpO2モニターの評価である.低酸素血症と高二酸化炭素血症は二次的脳損傷を起こす原因であり,予後に直結する生理学的異常である.2. 循環管理(C) JATEC™で,“防ぎ得た外傷死”(preventable trauma death:PTD)を起こさないためにもっとも注意を払うのは,出血の管理とショックへの対応である.外傷に起因する出血によらないショックには,緊張性気胸と心タンポナーデによる閉塞性ショック,脊髄損傷に伴う神経原性ショックがあるが,これらの致死的病態は,画像診断に固執することなく,バイタルサインや身体診察所見に基づいて診療早期に鑑別しなければならない.出血性ショックは緊急度の高い病態なので,少しでも早い治療介入が予後を左右する.出血性ショックの病態を評価する指標は血圧低下が一般的だが,健常人では受傷後しばらくの間,内因性カテコラミンの分泌や末梢血管収縮などの代償機転が働くので,出血が相当量に達するまで収縮期血圧は低下しない.早期の出血性ショックの病態は,末梢の皮膚所見,脈拍,CRT(capillary rell time),軽度の意識障害などいくつかの生理学的所見を総合的に判断して認知しなければならない.顔面・手指の蒼白,手掌の湿潤などが典型的なショック時の皮膚所見であり,いずれも末梢血管の過度な収縮による変化である.急速に循環血液量が減少すると,血圧は収縮期圧が一定のまま拡張期圧だけが上昇して脈圧が小さくなり,その後さらに低容量が進むと収縮期・拡張期ともに低下する. 出血性ショックに対する救命処置は外科的あるいはIVR(interventional radiology)による止血処置だが,低容量に対する蘇生処置は輸液と輸血である.ショック状態を認識すると同時に,出血以外のショックの原因が明らかになるまで,低容量に対して初期輸液療法を行う.初期輸液療法は上肢に確保した太い末梢静脈路から,加温した細胞外液補充液を,in-line manual固定図2介助者が下顎挙上しながら,頚部を正中位に保持する.

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