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脊椎・脊髄損傷の初期治療脊椎外傷患者が運ばれてきたらまず何をするのか1第1章引用・参考文献1) 日本外傷データバンクレポート2016 (2011-2015).https://www.jtcr-jatec.org/traumabank/dataroom/data/JTDB2016.pdf2) Davis JW.et al.The etiology of missed cervical spine injury.J Trauma.34(3),1993,342-6.3) 一般社団法人日本外傷学会ほか監修,日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン改訂第5版編集委員会編.外傷初期診療ガイドラインJATEC.第5版.東京,へるす出版,2016,344p.15成人には1〜2 L急速投与し,脈拍数,血圧,皮膚の色調,意識レベルなどを指標として,輸液に対する反応を評価する.2 Lの輸液を行ってもショック状態から離脱できない場合は,過剰な輸液による血液希釈を避けるため,赤血球と血漿分画製剤の輸血を速やかに開始して,蘇生処置としての止血術に移行する.初期輸液療法を行っている間に救急室内で評価できる画像診断は,ポータブルX線単純撮影(胸部,骨盤)と簡易超音波検査FAST (Focused Assessment with Sonography for Trauma)だけなので,出血源の確認や臓器損傷の程度はわからない状態で,開腹や開胸が行われる. ABCの順で,生理学的に破綻した病態を評価し,同時に蘇生治療が行われる.止血のための開腹や開胸手術はCの異常に対する蘇生処置なので,ショック状態が改善しなければ,手術の前に意識レベルや神経脱落症状を評価する機会はない.受傷直後から脊髄損傷に起因する麻痺があっても,ショック状診療手順とチームワーク態が改善しなければ,体幹の止血手術を優先して行うアルゴリズムが外傷初期診療なので,救急外来で救急医や一般診療科の医師と一緒に初期診療にあたる整形外科医も,ABCの対応がDの診察や処置に優先することを知っておかなければならない. JATEC™ガイドラインは,外傷患者を扱うすべての医師を対象に,診療所や一般病院の救急外来診療にも対応できることを目指して策定されているが,救命救急センターなどでは,重症外傷患者の診療時には複数の診療科の多数の医師が同時に評価と処置を行うことがある.限られた施設ではあるが,十分に訓練されたチーム医療に基づいて重症外傷患者に対応する場合は,開腹・開頭同時手術や,穿頭処置とIVRの同時進行なども行われるので,病態に基づいた熟練者の経験では,あえてJATEC™から外れる診療手順がとられることもある.ただし,そのためにはチームダイナミックスを熟知して,普段から施設内でのシミュレーションなどを行っていることが必要である.

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