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はじめに 認知症は長らく、医療現場でも、社会でも、なおざりにされてきました。 American Academy of Neurologyが、エビデンスに基づいた認知症に関する診療ガイドラインを発表したのは2001年のことです。わが国でも、日本認知症学会など6学会の合同で『認知症疾患診療ガイドライン』が2010年に作成され、2017年に改訂版が上梓されました。おざなりだった認知症診療を整備すべく、専門学会の動きが示され始めました。 かかりつけ医の認知症診療のスキルアップを目的として、講演会や教科書も百花繚乱です。しかしながら、いまだ現場の医療実態に合った診療に関する実践的なマニュアルは極めて少ないのではないでしょうか。診療のあり方とその具体的手法はガイドラインには記載されていません。抗認知症薬の使い方を目的とした講演会でも、チャンピオンデータに基づいた、紋切り型の処方法に終始する場合が多く、実践的な「さじ加減」については語られません。 そこで、本書では、会話を重要視した「もの忘れ外来」の診察室のライブと実用的な薬物療法を公開します。 認知症に対して、どのような視点や意識をもって日常診療に臨んでいけばよいのか? 認知症診療で最も大切なスキルは、診察室の何気ない世間話や患者さんの仕草から、病態を喝破する洞察力です。そして、臨機応変な「さじ加減」です。本書では、「もの忘れ外来」の、そのチョットしたコツをご紹介します。 認知症診療の現場では、煩雑な大脳心理テストやSPECT/PETのような高度先進の画像診断機器、そして最新のバイオマーカーは、ほとんど不要です。誤解を恐れずに申し上げれば、それらは、有用というより邪魔です。この30年、MRI/SPECT/PETなどのバイオマーカーの最先端の研究者であった私が断言申し上げるのです。 今もこれからも、認知症診療の主人公は、全人的医療を実践される「かかりつけ医」の先生方です。臓器別・疾患別医療の視点しか持たない、しかも希少な認知症専門医ではありません。 読者の皆さまの外来診療が、より楽しく、充実することを祈ります。2018年8月 おくむらmemoryクリニック 奥村 歩5

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