T600081
3/14
iii原著者序文 世界保健機関(WHO)は,自動車衝突事故により毎年124万人が死亡すると推定している.さらに悪いことに,自動車衝突事故は世界中で最も成長期にある15~19歳の死亡原因の第1位である.この数値には,世界中で負傷して永久的な後遺症に苦しむ何千人もの傷病者は含まれていない. 毎日,世界のあらゆる国で,救急医療従事者とファーストレスポンダーが自動車衝突事故に対応すべく準備しており,両者は最前線の外傷ケアチームとなる.最優先事項は死亡率と罹患率を減少させることである.残念なことに,これらのチームが事故現場に到着しても,車内の傷病者に接触できないことがあり,救助隊と救助ツールの到着を待つ間に,「ゴールデン・ピリオド」の貴重な時間が失われる. 最前線の外傷チームが直面する最大の課題は,事故車両内の傷病者にアクセスすることである.今日の車両の設計は,「衝突前・衝突時・衝突後における乗員の安全と保護」に関して進歩しつづけている.しかし,乗員を保護し,車外に放り出されないようにする安全装置の進歩は,同時に衝突後に車内に閉じ込められた傷病者に救急医療従事者がアクセスすることをより困難にしている. 自動車衝突事故の死亡率と罹患率を減少することができるかどうかは,以下の点にかかっている. ①現場のチームが安全かつ効果的に状況評価を行える能力. ②閉じ込められた傷病者にアクセスして外傷の初期対応を行う能力. ③傷病者を救出して迅速に適切な病院もしくは外傷センターへ搬送する能力. チームとして活動することにより,よりよい傷病者ケアが可能となり,「ゴールデン・ピリオド」の目標を達成する助けとなる. 多くの地域では最初に現場に到着するチームメンバーは,わずか2~3名である.事故現場の安全を確保し,内部に閉じ込められた傷病者にどのようにアクセスするかという訓練は行われていないことが多いので,救命のためのITLS外傷ケアを学ぶべきである.この知識がなければ,ほかの救助隊の到着を待たねばならず,「ゴールデン・ピリオド」の貴重な時間が失われてしまう.
元のページ
../index.html#3