2つ目は判断にブレが生じないという点です。疲れている深夜の時間帯の診療はどうしても判断力が落ちます。検査を待つのが面倒くさい、なんとなく大丈夫そう、といった気持ちが芽生えたり、逆になんでもとりあえず検査してしまおうという気になってしまうかもしれません。そうした中でもclinical prediction ruleの基準は明快です。疲れたときにも診療の質を一定に保つ役割を果たしてくれるでしょう。 しかしclinical prediction ruleはいずれも完全なものではありません。本来、可能性が低いものには感度が高く陰性的中率の高いもの、可能性が高い場合は特異度や陽性的中率が高いものが望ましいのですが、その双方が十分なものは限られています。また、目の前の患者と異なった対象から生まれたルールは、その患者に適用できないかもしれません。抗血栓薬を内服している患者に、内服している患者を除外したルールを適用しても、それは不適切な判断につながるだけでしょう。巨人の肩に乗っていても、診るべきものは目の前の一人の患者さんであることを忘れてはなりません。 本書はそうしたclinical prediction ruleが生まれた背景の研究を簡単に紹介しながら、実臨床で有効に使える点を「オモテ」として挙げつつ、注意すべき場面や陥りやすいピットフォールを「ウラ」として紹介しています。そのことによってclinical prediction ruleを正しく理解し、患者に適用することを目指しました。読み物としても面白く、論文を読み解く解説本としても楽しめると思います。 経験豊富な救急医によって実臨床でどのように使っているかという観点からも解説があるため、実際に使用するイメージも湧きやすいと思います。 本書が救急外来で判断に迷っている医療者にとっての良きガイド役となることを願っています。 最後になりますが本書の各執筆を担当してくれた豪華執筆陣のみなさま、粘り強く校正などにお付き合いいただいたメディカ出版の木村さん、山川さんには本当にお世話になりました。この場を借りて厚くお礼申し上げます。 2021年2月舩越 拓Emer-Log 別冊3
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