第1章 病院前新生児蘇生法普及プロジェクト5病院前新生児蘇生の必要性1変化が生じており、分娩施設内で出生したとしても30秒以内に自発呼吸が始まるのは全体の85%に過ぎない。10%の児は体位保持、気道開通、皮膚乾燥と刺激などの蘇生の初期処置で自発呼吸を開始する。そして3%の児でバッグとマスクによる人工呼吸で自発呼吸が出現し、2%の児で気管挿管による呼吸補助を要する。胸骨圧迫や薬物投与などの高度の蘇生を要することは0.1%とまれであり、新生児ではいかに有効な人工呼吸を行うかが重要な課題である。 さらに、分娩施設外で出生した児は低体温や感染の危険にもさらされており、分娩施設で出生した児と比較して、NICU入院率、周産期死亡率が有意に高いという報告もある5)。すなわち病院前出生であること自体、ハイリスクであると言える。このため元気に出生したとしても、救急隊には適切な対応が求められる。 前述のとおり、全国調査による2015年の施設外分娩の件数は891件、年間搬送人員は0.02%と、非常にまれではある。しかし一方で、1日に平均2.4件の施設外分娩が国内のどこかで発生していることも事実であり、アンケートに回答したすべての消防本部において、新生児蘇生法教育の必要性が認識されていた。 また、厚生労働省の資料によると、国内の分娩施設は出生数の減少を上回る速度で減少しており、分娩施設にアクセスする距離・時間は今後さらに長くなることが予測される6)。分娩施設までの距離が長いほど施設外分娩が多くなるとの報告もあり3)、救急隊が病院前周産期救急に関わる機会はさらに増加することが懸念される。 救急隊への教育方法として、日常業務の中でしばしば経験する事例においてはオン・ザ・ジョブトレーニング(on the job training;OJT)が可能であるが、まれな事例ではオフ・ザ・ジョブトレーニング(off the job training)が重要となり、NCPRはその手段となり得る。 小西らは救急救命士49名を対象に新生児蘇生法講習会を受講した前後における心理的側面、手技の変化について調査を行い、受講後で心理的側面・手技ともに自己評価の改善が認められたと報告した7)。また教育の効果として、講習会受講前に比して、受講後の方が病院外出生児のApgarスコアとNICU入院時の体温が改善したと述べている。1 新生児、特に出生直後の新生児に対しては、一般救急とは異なる周産期搬送システムが都道府県別に整備されている。2 施設外分娩での救急要請では、児(時に複数)と母体という、治療戦略の異なる複数を対象とする。3 わが国の出産は施設内分娩が99.8%で、退院後の新生児の急変事例を含めても救急隊が新生児を取り扱う事例は極めて少ない。4 限られた資器材で新生児蘇生に対応しなければならない。
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