日本周産期・新生児医学会は2007年から新生児蘇生法(Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation;NCPR)普及事業を開始しました。これは、新生児の予後改善を目的に、すべての分娩に新生児の蘇生技術を持った新生児担当の人員を最低1名配置できる体制を整備することを目指したものです。本事業は、新生児蘇生のための知識・技術・態度を習得するための講習会カリキュラム作成と、自己学習用のテキスト作成および講習会を開催する人材の育成を主体としています。幸いなことに、周産期医療に従事する多くの職種の方々のご支援・ご支持のもと、2019年12月現在、5,033名のインストラクターにより講習会が全国津々浦々で行われる体制が整い、73,657名が認定を受けています。 NCPRガイドラインは、5年ごとに国際蘇生連絡委員会が発表するConsensus on Science and Treatment Recommendation(CoSTR)を受けて日本蘇生協議会がわが国の実情に合わせて作成し、本講習会はこれに基づいて構築されます。CoSTRではクリニカルクエスチョンを立案し、文献検索を行い、エビデンスに基づいて提言が出されます。現在のガイドラインは基本的には院内出生児を対象としたものです。わが国では99.8%が施設内分娩であるため、今までは院内出生児に対応する医療者を講習会受講の柱として事業を展開してきました。 しかしながら、何らかの理由で病院前、すなわち自宅や車中での分娩も生じ、それらの児が新生児集中治療室に搬送されてくることもまれではありません。消防庁の2017年の新生児の搬送実績は13,417名で、全体の0.2%に過ぎません。また、新生児の搬送の多くは病院間搬送なので、周産期医療従事者がいない中、救急隊員・救急救命士による分娩介助および新生児蘇生が行われる機会は少ないことも事実です。しかし、少ない機会ながら新生児の蘇生・搬送を行った方々の新生児の蘇生を深く学びたいという希望から、本講習会を受講される救急隊員・救急救命士も年々増加しています。救急隊員・救急救命士で認定を受けた方は1,000人を超えています。 一方、本講習会を受講した救急隊員・救急救命士のアンケートには、本講習会で行われている基本実習およびシナリオ実習は蘇生環境が整った病院内での分娩を想定しており、救急隊員・救急救命士が病院前救護で行う分娩および新生児蘇生の現状とそぐわないため、限られた資機材と蘇生台のない環境下での実際的な基本手技の実習とシナリオ実習への要望が多く寄せられています。救急隊員または救急救命士の活動基準は各地域のメディカルコントロール協議会が定めていますが、平成31年度版救急救命士国家試験出題基準にもNCPRの記載があり、地域によっては救急救命研修序ii
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