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21病院前新生児蘇生の必要性1病院前周産期救急の特殊性 周産期救急領域は妊産婦や胎児、生後間もない新生児を対象とし、高度な専門性を要する。わが国では、リスクの高い妊産婦や新生児を高次施設である総合/地域周産期母子医療センターへ施設間搬送する場合、一般救急とは異なる周産期搬送システムによって行われることが多く、医師・助産師・看護師といった専門職が搬送に同行するのが一般的である。周産期搬送システムは都道府県単位で整備されており、担当部署は「保健福祉部 医療対策課」など医療関連部署であり、一般救急を管轄する防災関連部署とは組織が異なる。 これに対して施設外分娩(自宅や車中など、分娩施設に到達する前に非計画的に出産すること)に代表される病院前周産期救急事例では、まず妊産婦が救護者として119番通報することがほとんどであり、通常の周産期搬送システムとは異なり、専門の医療者がいない中で救急隊が最初に妊産婦と新生児に対応する必要がある。 またメディカルコントロール体制が整備された結果、救急隊の相談先として指令センターの救急医は大きな役割を担っているが、周産期領域はその専門性ゆえに救急医からの口頭指導が得られにくいという点からも、病院前周産期救急は一般救急システムと周産期医療システムの狭間に置かれた存在だといえる(図1-1、図1-2)。 さらに施設外分娩は、外傷や脳血管障害などに比べて圧倒的に事例が少ない上に、妊産婦と新生児という2人の患者が同時に発生するという点でも特殊性が高く、救急隊は実践経験の乏しい中で「待ったなし」の対応を迫られることになる。2わが国の病院前周産期救急の現状 わが国の救急の現況は、総務省消防庁によって毎年、「消防白書」や「救急救助の現況」などに取りまとめられ、ホームページ上でも公開されている。救急自動車による搬送人員の総数は年々増加し、2017年においては5,736,086人であったが、年齢区分上65歳以上の高齢者が59%を占め、新生児(日齢28未満)の搬送人員は13,417人で全体の0.2%に過ぎない1,2)。さらにこの中で、施設外分娩で出生した新生児がどのくらい含まれるかについての公的な記録はなく、不明な点が多い。 加藤らは、全国の802消防本部に対して2010年における病院前周産期救護の調査を行った。

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