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2 ECMOとは重症の心不全、呼吸不全に対し、血液ポンプと膜型人工肺よりなる体外循環を用いて循環呼吸補助を行う生命維持法である。重症心不全に適応するcardiac ECMOにおいては、わが国では、PCPSとして広く普及し、重症心原性ショックや心停止例に対する緊急循環補助や蘇生での有用性が認められてきた。本稿ではPCPSについて、歴史的変遷と構造・定義について述べる。1.V—Aバイパス(静—動脈バイパス) PCPSの原型であるveno—arterial(V—A)バイパス装置とは、開心術で用いる人工心肺装置を小型化した携行型人工心肺装置である。その構造・原理は、大腿静脈経由で落差陰圧脱血した静脈血をいったん貯血槽にため、血液ポンプ(ローラーポンプ)で膜型人工肺に送り、動脈血化し大腿動脈に送血するもので、開心術における人工心肺と同様、心停止時でも強力な流量補助が可能である。PCPSは、このV—Aバイパスがさらに簡易型で操作性のすぐれた装置へと進化したものである。2.携行型人工心肺装置の歴史:PCPSに至るまで 携行型V—Aバイパスの概念は1961年Cooleyら1)の肺血栓塞栓症患者への応用に始まり、以後、心原性ショック症例や開心術後ポンプ失調例に対する補助循環に用いられてきた。しかし、これらはローラーポンプを用いた人工心肺を小型化したものであり、通常、人工心肺時と同様の操作、監視を要すること(とくに貯血槽の血液レベルの厳重な監視が必要)、送脱血管挿入に鼠径部切開を要するなど、簡便さ・操作性の面で問題があった。 1983年Mercy Medical CenterのPhillipsらは、経皮的に挿入可能な送脱血管と遠心ポンプを用いた人工心肺を報告し、現在のPCPSの原型ともいえる補助循環法を紹介した2)。1988年University of Maryland HospitalのVogelらは、これをcardiopulmonary support system(CPS)として9例の待機的カテーテルインターベンション時の循環補助(左冠動脈主幹部病変などの重症冠動脈疾患症例6例における冠動脈インターベンション、重症大動脈弁狭窄症3例の経カテーテル大動脈弁形成術)に応用した3)。1990年にはCPS下待機的冠動脈インターベンション(elective supported angioplasty)の米国14施設105例のnational registryが報告された4)。重症心原性ショックや心停止などの急性心肺不全に対する緊急CPSの使用は1989年Phillipsらによる22例の報告5)が最初である。翌年の1990年にはSharp Memorial HospitalのReichmanらにより38例6)、Northwestern University Medical SchoolのHartzらの32例の報告7)がみられ、1992年にはHillらにより17施設187例のnational registryが報告されている8)。また、1993年Brigham and Women’s HospitalのArankiらによりヘパリンコーティングシステムを用いたCPSが報告され9)、ヘパリン全身投与量の減量が可能となり、以後、出血が問題となる開心術後補助循環などでは著しく成績が向上した。 わが国においては、1990年に大阪大学から5例(elective supported angioplasty 3例、急性心肺不全2例)10)、古賀病院(久留米)から1例のelective supported angioplastyの報告11)が最初である。翌年の1991年には経皮的心肺補助研究会(以降、PCPS研究会)が発足し、わが国におけるシステムの名称がPCPSとされ、心臓1ECMO/PCPSの歴史と定義1.1 循環・蘇生

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