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5 ECMOの歴史は1931年まで遡り、外科医であるGibbonは若年患者が肺塞栓によって命を落としたことをきっかけに体外循環の研究に専念した1)。そして、1953年にGibbonらは、18歳女性に対する心房中隔欠損症の修復術において、体外循環を用いて初めて臨床で成功した2)。さらに、1972年にはHillらによって、重症多発外傷からARDSに陥った24歳男性の患者が、75時間のVA ECMOによって救命でき、成人重症呼吸不全のECMO成功例が初めて報告された3)。しかしながら、当時は成人ECMO例に対する救命率は非常に低く、ECMOの有効性は疑問視されていた。 そうしたなか、1979年に初めてECMOの有効性を評価した無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)がアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の主導で行われ、成人の重症呼吸不全患者90名に対してVA ECMO群と人工呼吸器管理群が比較された。しかし、両群における生存率は10%未満と予後はきわめて悪く、ECMOによって予後は改善しないと結論づけられた3)。この報告によって、成人呼吸不全に対するECMOは一時的に否定的な流れとなった。しかしながら、1990年代には高流量のECMOサポートを行ったうえで、人工呼吸器設定を高圧や高濃度酸素を避けるlung rest設定で管理することで、ARDSに対して高い救命率が報告されるようになった4,5)。 そこで、ECMOの有効性を評価するRCTが再度求められ、重症ARDS患者180名に対してECMO群と従来治療群を比較するRCTであるCESAR trialが、2009年に英国から報告された6)。本研究ではECMOセンターに集約化された患者をECMO群として振り分けられたため、実際にはECMO群のうち75%(68/90)のみがECMO治療を受けたことになるが、ECMO群は従来治療群と比較して有意に6カ月生存率を改善した(相対危険度0.69;95%信頼区間0.05~0.97、p=0.03)。以上より、重症呼吸不全患者にECMO管理にもとづいた治療を行うことで、予後が改善することが報告された。このように、成人呼吸不全に対するECMOの有効性が一度は否定されかけたが、CESAR trialによって脚光を浴びるようになった。1.日本におけるECMOの問題 ECMOは呼吸ECMOのみならず、循環サポートを目的とした心臓ECMOとしても発展を続けてきた。1966年に心肺停止に対するECPRが神経学的予後を改善する可能性が報告され7)、1983年にPhillipsらは、経皮的挿入可能なカニューレと遠心ポンプを組み合わせた閉鎖回路による人工心肺装置を考案し、心停止に対し緊急心肺蘇生や循環維持を目的に臨床応用を開始した8)。1988年にVogelらは、送脱血カニューレを外科的に大腿動静脈から挿入し、重症冠動脈疾患に対する経皮的冠動脈形成術施行時の循環補助としての使用を報告した9)。 わが国でのECMOは大腿動静脈経由で心肺補助を行うPCPSを中心とした歴史が根深く、日本のECMOは独自の歴史をたどってきた。日本ではPCPSという用語が一般的に用いられているが、一部のアジア諸国でのみ用いられている用語であり、欧米では循環サポートの場合はVA ECMO、心肺停止時に用いる場合はECPRといった用語が一般的である。この用語の違いからもわが国が独自の路線を進んでいることがわかる。また、1988年頃よりわが国においてECPRが広く臨床応用されるようになり、年々使用数が増加してきた。1991年にはPCPS研究会が発足し、ECPRの普及と成績向上に向けた種々の活動を行ってきたが、その成果とともに装置の工夫改良もあって、いくつかの研究でECPRが心肺停止患者の神経学的予後を改善させると報告された10~13)。1 ECMO/PCPSの歴史と定義Ⅰ総 論1.2 呼 吸

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