6はじめての老衰の診断私がはじめて老衰と死亡診断書に記載したのは、医師になって6年目、2005年頃でした。当時、茨城の大和クリニックで外来診療と在宅医療(訪問診療+往診)に従事していました。在宅医療を行うのは初めての経験であり、それまでの病院医療とは違う世界に戸惑いながらも楽しく仕事をしていたのを覚えています。穏やかな最期を迎えるそんな中、クリニックの院長であった下田泰彦先生が「老衰」という死亡診断をつけているのを見て、「老衰って、つけてよいのだな」と感じました。それまでは急性期病院で内科医として勤務していたため、なかなか老衰という言葉を使うことや、ましてや診断書に記載するというようなことはありませんでした。10年以上前のことでもあるため、今ほど超高齢者(本書では85歳以上を超高齢者と呼びます)が多くなかったこともあるのかもしれません。しかし、在宅医療を行ってみると、そこには自然な形で、穏やかに最期を迎えられる老衰の方がいました。私自身が最初に「老衰」と死亡診断書に記載した方は、90歳代の農家の方で、私が訪問診療を行っていた方でした。徐々に食事が摂れなくなり日常生活動作(ADL)が落ちていく感じでした。家族も「これは自然なことですよね」と理解されており、家族から「先生、老衰でしょ?」という言葉がありました。積極的な検査を必要としそうな疾患もないようでしたし、本人も家族も色々な検査をしたいという希望もなかったので、そのまま自宅で看取りをしました。その後も、何人か老衰として看取らせていただく中で、亡くなられた時も、家族の悲壮感は強くなく、「大往
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