第1章在宅医療の歴史──生活モデル医療を求めて10老人ホームは措置制度に基づいており、大多数の市民には非常に利用しにくい施設でした。それが、後に老人病院が跋扈する背景の1つです。1970年代に入ると、診断や治療技術の進歩をはじめ、モータリゼーションの発達などによって病院や診療所といった施設における医療が普及します。全身麻酔手術や各種検査法が発達し、病院医療の質は飛躍的に向上しました。救急外来が高水準の医療を提供するようになったのも、この頃です。CTやMRI、超音波などの機器が普及し、病院の高度医療はいっそう発達します。結果、病院医療への信頼が高まり、自宅での死亡は年々減少し、76年には病院死が自宅死を上回りました(図1)。それ以降、病院で死ぬことが当たり前となり、死は身近でなくなっていきます。近年も、多くの人が自宅での死を望んでいるにもかかわらず、病院死は8割近くの水準で推移しています。高齢化社会へ1970年代の平均寿命は70歳代でした。高齢化率は70年に7%を超え、わが国は高齢化社会へと突入します。診断や治療技術が進歩したとはいえ、当時、高齢者へのリハビリテーションや慢性期のケアは十分とはいえませんでした。脳血管疾患でまひが残ったり、がんや心臓病などの術後、褥瘡や全身の機能低下を来したりするケースが増加したのです。こうした患者の多くは適切なケアを受けられず、寝たき
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