はじめに 京都桂病院の中村です。 昨今、論文の結果がエビデンスといわれ、その結果に追従することが一般化してきました。しかし、インターベンション論文の多くは多数症例の平均値の結果として示されており、一例一例がどのように行われていたかがわからなければ結果を鵜呑みにすることはできません。臨床の現場では一例として同じ症例はなく、個々の病変に適した治療法の選択が必要となります。そこで今回、紙上PCIライブデモンストレーションという新しい形式の本を岡村先生と共に企画しました。 カテーテルインターベンションの目的は、狭窄部の内腔を元の形態に近づけることであり、合併症を起こさず、また得られた結果が長く保たれるようにする単純な治療です。エキスパートDr.とトレーニングDr.との違いを考えてみると、技術的な差はあまり大きくはないと思いますが(ワイヤー操作が基本的にできることは当然ですが)、PCIというもの自体の理解度に大きな差があります。PCIを深く理解するには、それなりの知識、経験の蓄積なども必要で、エキスパートDr.の考え方を知ることはとても参考になります。本や雑誌などで成功した複雑病変治療の報告は数多くみられますが、手技中の考えを汲み取ることは困難です。 そこで今回、PCIのエキスパートDr.がどのような考えで手技を行ったかがわかるようにライブ形式の本を作成しました。まず症例を提示してもらい、若手のDr.からコメンテーターとしてさまざまな意見をぶつけてもらい、それに対してさらに答える形で治療の解説を行ってもらいました。最後に術者がどんなポイントに最も注意を払っていたかを質問形式で提示してもらっていますので、みなさんもぜひ考えてみてください。実は私はかなり一致しませんでした。つまり、一例一例、術者術者での考え方が千差万別であることがわかり、私自身も新しい発見がありました。PCIは事前に予定した通りに進むことは8割程度であり、残りの2割は手技中の画像診断などを元に治療戦術を変更し、効果と、合併症が生じた場合の損失をバランスしながら最善の結果を目指します。このようなジャッジは手技中に連続して行われています。結果への到達法は一本道ではありません。エキスパートDr.の個々の症例に対するアプローチをみていただきたいと思います。2020年1月中村 茂
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