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「白のカルテ」 まえがき Devil’s Advocate(悪魔の代弁者)という言葉がある。 単に天邪鬼な人物を指して使用されることもあるが、医療の現場では「(議論の妥当性を試すために)敢えて反対意見を述べる」ときにしばしば警句として用いられる。筆者も「自分が悪魔の代弁者ならこう言う[Let me be the devil’s advocate... ]」などとして、よくカンファレンスの際に真逆の方向から議論を吹っ掛けられたりしたが、これが意外と見落としを防ぎ、議論の根っこをつかむことに役に立った。思うに、この患者さんが一番困っていることは何か?そもそもなぜその治療を行おうとしているのか?など、一度原点に立ち返って考える効果があったように思う。 ただ、わが国では伝統的にこうした形の討論は好まれない。回診やカンファレンスもどうしても下からの報告に対してトップダウンに命令が下される場となりがちである。こうした伝統は教科書の執筆にも受け継がれており、成書を見てみても「私ならこう考える」という視点からの記載が目立つ。Devil’s Advocateだけの視点から執筆された書籍もたまに見かけるが、どうもバランスが悪い。 しかし、本シリーズは巧みにそのハードルを乗り越え、まず本書で「王道」として「白のカルテ」が提示されている。そのフォーマットとしては、実症例が最初に提示され、その後エビデンスに準じたstate-of-the-artの診療指針が明示されている。比較的「こうしなさい」的な論調は抑えられているように思われ、コアとなる図表の配置にも一貫性があり、読者がスラスラと読み進めることができるように随所に工夫がなされている。 その後に、さらに深い議論を行うための「考究」として「黒のカルテ」に続く構成がとられており、この徐々にステップアップし、そして多方面からさまざまなトピックに光を当てるような配慮が心にくい。 このような現場目線に根差したシリーズを企画し、完成に漕ぎつけられたということには感嘆する。BACCHUSの先生方が、日ごろからその研究会で研鑽を積まれてきたことが結実しているのだと思われるが、ぜひ読者の皆さんにも本シリーズを通じて現代循環器内科学の多様性と深さに触れていただければと思う。 2021年2月吉日慶應義塾大学 循環器内科香坂 俊

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