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長年、心エコーに携わっている超音波検査技師の皆さんと一緒に仕事をやっていると、いくつかのことに気づきます。第一は心エコーの専門医がいる施設と、いない施設の間の大きな格差です。心エコー専門医がいる施設では、エコー所見の意味や患者さんの疾患・背景・治療の意味を容易に知ることができ、小さな疑問でもすぐに解決できるので不安なく仕事をされています。さらに、上位機器や、知識の深い同僚の存在など、職場環境が非常によく、自然に実力が身についています。一方、心エコー専門医がいない施設では、まったく逆の状況です。技師の実力・やる気が同じでもアウトカムはずいぶん違います。では、環境の良いところで働く技師なら無敵かというと、そうとも言えないようです。たとえば、救急現場です。救急では救命につながる情報が今すぐ欲しいのに(5分後には不要になっているかもしれない)、対応が遅いことがまれではないと思います。救急現場の息遣いや体温が届いていないように思います。同じようなことは日常臨床でも散見されます。心エコーは心臓の状態を克明に映し出してくれます。まるで、そこにすべてがあるかのように。しかし、それが意味するところはいつも同じとは限りません。計測された値が同じでも、患者さんの病態・病期・治療・併存症などによって異なる解釈になることがまれではありません。やはり、ここでも日常臨床現場の息遣い・体温が届いていない、臨床的知識が足りないと感じることがあります。お互いに見えているのに、何か少し違う、まるで、そこにガラスの壁があるように見えるときがあります。ガラスの壁を壊していく力は、臨床現場からの生の情報(患者さんの状態・病像・併存症等々、さらに患者さんの思いまでのさまざまな情報)をどれだけ意味を持った情報としてすくい上げられたか、さらに、解剖や生理学・病理学も含めた幅広い基礎知識を身に付けられたかが、一皮むけた優秀な検査技師になるかどうかの分かれ目のように思います。私たちは毎週、その週に経験したさまざまな心エコー画像をreviewします。その際、患者さんの情報を共有し、得られた所見の考え方、基礎になる知識を共有することに重点をおいて勉強してきました。私が赴任してから3年、毎週毎週、エコー所見の背景を考え、基礎知識を知るように勉強を継続してきました。そのかいあってか、どう考えるかが身についてくると、自然に所見の読みが深くなり、実力がついてきました。もちろん、逆に私が教えられたことは数多くあります。本書は普段の私たちのエコーカンファレンスの内容を、技師たちが新たに書きおこしてくれたものです。ボチボチだった私たちがどのように実力を蓄えていき、いっぱしの検査技師になっていったかの過程を追体験できる内容になっています。学会で広く認められた一般的解説だけではなく、仮説段階のものや、経験則に基づいた説明も入っていますが、所見を理解するうえで必要と考えられるものはそのままにしています。ですから、どうか、力を抜いて、私たちの軌跡を楽しんでいただき、少しでも役に立つ情報を皆さん自身が取捨選択して実力を少しでも伸ばしていただけたら、これ以上の幸せはありません。2019年8月村上弘則刊行に寄せて3

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