4のかけ方も変わってくるでしょう。子どもを診察した結果、専門施設でのフォローが必要だと判断したときも、母親が理解し納得できるように伝えなければ、継続した支援を拒否されることもあります。例えば母乳育児が良いとわかっていても、まずは母親の気持ちを酌みとり、母親が受け入れられる“母乳育児のゴール”に向けて歩みたいものです。 私は、乳児健診や訪問指導の役割の半分が児の成長・発達を含めた全身状態をチェックすることで、残りの半分は育児支援であると思っています。母親の置かれた育児環境・状況を理解し、その母親に適した言葉がけをして、最終的に母親をエンパワーすることが、乳児健診の役割の一つであるとも言えます。子育てにおける不安が軽くなり、母親が元気になって帰ってくれたときに初めて、「このお母さんとお子さんに関われてよかった!」と思えるでしょう。この喜びを知ってしまうと、乳児健診が苦痛でなくなり、そのうちに、子どもの笑顔から元気をもらい、母親がにこやかに診察室を出て行くことで癒やされるようになっていくのです。 これまで多くの政治家が唱えてきた少子化対策では、私たち医療関係者の役割が不明確でした。私たちは母親と子どもの目の前にいる“第一線の不安解消チーム”です。女性が輝く社会と少子化対策を両立するために、いまこそ私たちが団結して子育て中の母親を支えていきたい……、そう思って5年前に初版(2010年刊行)の改訂に取り組みました。また改訂版では、各月齢ごとに健診のポイントを示すとともに、「よく泣く」「おっぱいが足りないの?」などといったよくある質問を例にして、母親とのコミュニケーション例をマンガにして示しました。このたびの新版では、予防接種スケジュールをはじめとして、新しい情報を母親にわかりやすく伝えていけるようにさらに改訂しています。小児科医だけでなく、乳児訪問をしている保健師さん、助産師さん、外来担当の看護師さんも、この本を読んで子育て中のお母さんを笑顔にしていただけると幸いです。 “元気をもらう乳児健診”に一緒に取り組んでいきましょう! 2020年11月 昭和大学医学部小児科学講座主任教授 水野克己
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