腹式単純子宮全摘術は婦人科手術の基本であるが,手術の際には,常に,広汎子宮全摘術を意識すべきと考えている.本書に掲載した術式は,まず,直腸側腔を展開して直視下に尿管の走行を確認し,子宮を削らず摘出する安全性の高い手術である.これは「拡大子宮全摘術」とも呼ばれる術式であり,広汎子宮全摘術を見据えたものである.本術式では,あえて,パワーデバイスは電気メスのみを用い,主にクーパーにて切離し,吸収糸で結紮することにより止血している.電気メスとクーパーのみで手術を行う場合は,正しいラインで切離ができないと余分な出血を起こす.本術式を通して正しい切離ラインを身に付け,広汎子宮全摘術へとつなげていただきたい.また,鑷子や持針器の使い方にもこだわり,基本的手術操作にまで言及したので参考となれば幸いである.本書は,筆者が産婦人科専攻医に腹式単純子宮全摘術を教えている場面を書いたものである.読者が手術の流れを紙芝居のように読み進められるように,鮮明な写真に解説を添えて掲載している.付属のDVDも,実際に専攻医が手術を行い,筆者が指導している映像である.この映像には,術者としての専攻医の動きをそのまま収録し,筆者の指導の声も入っており,手術の臨場感が伝わることと思う.専攻医の方々にとって,どこがわからないのか,どこが難しいのかを肌で感じ,それに応えようとしたのが本書である.したがって本書は,専攻医と指導医の両方の目線で,どちらにも役立つように書いたつもりである.本書が,専攻医のためだけではなく,指導医の先生方の手術の指導書としてもお役に立てれば幸いである.なお本書では,“Commentary”に筆者の手術にかける思いやエピソードを,“コツ”には技術的なポイントを記載しているので参考としていただきたい.末筆ではあるが,撮影にご理解をいただいた三重大学医学部臨床麻酔部の先生方,また,三重大学医学部附属病院・手術室の看護師ならびにスタッフの方々に心より感謝を申し上げる.2015年4月 田畑 務序 文1
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