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 わが国の周産期医療は世界的に高い水準を維持している。その結果、新生児死亡率は過去20年以上にわたって世界で最も優秀な値を保持し、直近では、0.9/1,000出生と、世界に先駆けて1.0を下回っている。すなわち、日本で生まれる新生児は元気に育つ可能性が世界のどの国よりも高く、わが国は新生児とその家族に最も優しい国と言える。しかしながら、このような高水準の新生児医療を維持している医療現場は、諸外国と比べて必ずしも恵まれているとは言えない。特に、医療スタッフの数は諸外国に比べてむしろ限られている。それでも日本が高い新生児医療水準を維持できたのは、医療現場のスタッフの日々の努力の結果である。しかし、個々の努力で達成できることには当然限界がある。また、現在の高い新生児医療を後世に届ける義務もある。そこで、わが国の新生児医療に責任を持つ日本新生児成育医学会では、現在の高い新生児医療水準を今後も維持できるように、新生児医療に従事する全ての医療者に必要な知識を網羅的に記載した、「新生児学」の教科書を作成することとした。 従来わが国には、「新生児学」の教科書として1995年に作成したものがあったが、第2版以降、内容の改訂は行われなかった。そのため、新生児医療の進歩に即した最新の科学的知識を系統的に得ることは決して容易ではなかった。また、せっかく世界最高水準の新生児医療を維持していながら、医療現場のノウハウを広く普及させる手段にも乏しかった。このような状況は、わが国の新生児医療の将来にマイナスになる可能性も考えられた。新生児医療の発展に責任を負う当学会が、わが国の新生児医療の全てを学ぶことが可能な教科書を作成することを今回決定したのは自明のことと言える。 本書の特徴は、最新の新生児学を全て扱ったことである。全ての分野を系統的に記載した。そのため、産科を含む各分野の専門家に執筆を依頼するとともに、各分野別に編集責任者を指名し、執筆の初期の段階から内容の吟味を重ねてきた。その結果、最新の科学的知見を漏れなく記載するとともに、一定の学説に偏らない標準的な新生児医療の教科書とすることができたと考えている。さらに、カラーを多用することで、学生、研修医、専門医、看護師、助産師、薬剤師、理学療法士、臨床心理士などの、全ての新生児医療関係者に理解しやすい内容になっていると考える。 今回本書を完成できたのは、関係者の皆さんの努力の結果であり、全ての方々に改めて心からお礼を申し上げる。わが国の新生児医療が世界最高水準であると同様に、本書の内容も世界最高水準と言える。是非、新生児医療現場で活用し、わが国の、そして世界の新生児医療の水準のさらなる向上に利用していただきたい。 2018年10月                           一般社団法人 日本新生児成育医学会 楠田 聡緒 言…………………………………………………………………………………………………………………

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