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8 「遺伝する」という現象では、子に親の形質が引き継がれるということに目が行きがちですが、実際には子には2人の親がいて、その親にはさらに2人の親がいて、少しずつ形質の差異が生じてきます。 日本語の「遺伝」という言葉には、英語の“heredity”と“genetic”の意味が含まれています。前者は「継承」という意味で用いられ、後者は「遺伝子(もしくは遺伝学的原因)に起因する」という意味で用いられます。 まず、ありがちな誤解ですが、核にある遺伝子は2セットあり、その1セットを子どもに渡します。よって核の遺伝子の変異を原因とする疾患では、原則として子どもに100%遺伝するということはありません(特殊な状態では100%遺伝しているように見えるので注意!)。また、遺伝子の新生変異で生じた疾患は、「遺伝学的原因を持つ」という意味で「遺伝している」のですが、親は遺伝子の変異を持っていないので「継承」という意味では「遺伝していない」ということになります。このように、遺伝性疾患は「遺伝する」とも言えますし、「遺伝しない」とも言えます。 しかし、受精卵の段階で起こった変異や、生殖細胞に生じた変異は、その変異が生殖に影響するものでなければ、次世代に変異が引き継がれることになります。特に生殖細胞系列に起こった体細胞変異を性腺モザイクと言いますが、この場合には親が無症状の場合や、末梢血の保因者診断で変異が認められない場合においても、子に疾患を認めることがあります。また、変異遺伝子を保有していても、表現型に異常の出ない人のいる疾患や、弱い表現型で疾患と気付かれない場合もありますので、「遺伝性疾患だから“遺伝”する」という固定観念に取り付かれない必要があります。 逆に、生殖適応度と言いますが、疾患によっては子を残すことが難しい疾患もあります。生殖適応度の低い、すなわち子を残すことが難しい遺伝性疾患では、子どもに「遺伝性疾患」は「遺伝」する?Q1「遺伝性疾患」は染色体や遺伝子の変異によって起こりますが、それら全てが「遺伝」するわけではありません。A

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