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12周産期救急の新しい流れ外傷初期診療×周産期救急 日本は妊産婦死亡率・周産期死亡率ともに極めて低い国である.しかし依然,妊産婦死亡原因の一位には産科出血がある.例えば「(古典的)羊水塞栓症」などに見られる突然の心肺虚脱と止血困難状態は,以前は死亡率が高く「どうせ助からない」という諦観に支配されていたが,現在,先進国では救命率が75%を超えるようになってきている.刮目すべきはそれらの国では妊産婦死亡のうち産科出血の占める割合が日本より少ないということである.「輸血さえできていれば助かったのに……」という症例は,純粋に医学的な問題ではなく,システムの問題だといえる. 今日では一人のスーパー産科医の活躍で患者を救うなどということはマンガやドラマでさえあり得ない.周産期救急においてもできるだけ早い覚知と多職種が協働して治療にあたること,そして高次施設への的確な搬送が救命率を上げる.本書は外傷初期診療の考え方を多職種の共通言語として周産期救急の現場に取り入れることを目的に書かれている.実際,周産期救急と外傷初期診療とは極めて共通点が多い.緊急性の高さ,出血における初期対応,輸血戦略などがそれに該当する. 表1に示すとおり,妊婦は危機的状況に陥るまでは基本的に若く,健康である.これは交通事故などの受傷者と同様ととらえることができる.重症化の原因としての大量出血や脳出血,血液凝固障害には,外傷・周産期救急のいずれもしばしば遭遇する.また,外傷診療と同じく周産期救急もチーム医療の要素が極めて大きい.救命救急センターと周産期のスタッフとが共通言語をもって妊産婦の救命を行えることをPC3の目的の一つとして開発したのはこのためである. これらのことから,外傷初期診療の仕組みを周産期救急の現場に援用することの利点は理解いただけたのではないだろうか.では,周産期救急の現場で取り入れられるべき外傷初期診療の戦略とはどのようなものだろうか? それは次の4点に集約される.表1 周産期救急と外傷初期診療の共通点周産期救急外傷診療患者背景基本的には健常者基本的には健常者緊急度緊急度が高い緊急度が高い診療スタイル救 急すべてが救急出血性ショック多 い多 い大出血よく遭遇するよく遭遇する脳出血よく遭遇するよく遭遇する血液凝固障害よく起こるよく起こるチーム医療の要素大きい大きい
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