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3女性のライフサイクルを考慮した妊孕性温存療法近年、女性が自立して職を持ち、社会で活躍するようになった。一方、女性の平均婚姻年齢は2015年には31.1歳となり、1975年の25.2歳と比べ、上昇の一途をたどっている。この二つの要因が不妊治療現場に大きな影響を与えていることは否めない。女性のライフサイクルは、乳・幼・小児期、思春期、性成熟期、更年期、老年期と明確に区別され、ホルモン状態が大きく変化し、エストロゲンの消長に伴って、さまざまな病気が発生する。女性特有の疾患である子宮筋腫や子宮内膜症は出産年齢が遅れることによって罹患率が上がるため、社会進出や晩婚化に伴い挙児希望年齢が上昇することで自らの生殖機能が低下するだけでなく、同時に何らかの女性生殖器疾患を持っていることが多くなる。ライフサイクルの変化に伴い、性成熟期にある女性がさまざまな産婦人科領域の疾患に罹患するようになってきており、その中でも、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症、卵巣腫瘍、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌などはその後の妊孕能にも影響を与える疾患である。晩婚化のため、挙児希望の段階でこれらの疾患に遭遇したり、発見されたりすることが増加してきている。したがって、現在および将来に挙児希望のある女性の治療にあたっては、常にその疾患の根治性と妊孕性温存の両者に配慮した対応が必要となる。未婚女性や挙児希望のある女性において、特に女性生殖器に対する手術は、可能な限り妊孕性温存を最優先に考えるべきであるが、手術介入は各個人の状況に大きく影響されるため、疾患の存在=手術という一律の対応ではなく、個別の対応が必要となる。手術療法は現在、腹腔鏡を中心とした内視鏡下手術がスタンダードとなってきている。そこで行われる手術の最適な時期は妊娠を希望する時期であるが、その状況でない場合にも、薬物療法などで対応できる疾患の場合には、病態の進行を遅らせ、改善しておくことも必要である。しかしながら、過多月経、月経困難症、圧迫症状などの自覚症状が強い場合は、妊娠を希望する時期に合わせることではなく、早急な手術が必要となり、個々のライフサイクルを考慮した妊孕性温存療法が求められる。一方で、手術介入を行うことは、手術侵襲によってさらに生殖機能ロスを引き起こし、不可逆性不妊に至ることも懸念されるため、不妊や将来の妊孕性温存を目的に行われる手術である生殖外科は、その適応や手技が非常に重要となる。さらに近年の内視鏡治療の発展は目覚しく、日々進化しており、現在の不妊治療の発展と内視鏡治療の発展が的確に融合された生殖外科には、今後の不妊診療の成績を向上させる可能性を十分に期待できる。現代の女性を取り巻く社会情勢と女性のライフサイクルの乖離の問題を可能な限り解決するためにも、今後ますますその重要性が認識され、個人のニーズに合わせて最適な治療を提示するための生殖外科が必要である。森田峰人生殖外科総論1生殖外科とは第1章

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