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iv まえがき子どもと家族をみるすべてのプロフェッショナルたちへ「書かれた医学は過去の医学であり、目前に悩む患者の中に明日の医学の教科書の中身がある」 西洋医学の名医、故 沖中重雄先生(元 東京大学教授)の言葉には、名言がたくさんありますが、私が最も好きなのがこの言葉です。 現在の小児医療は、ワクチンの発達や栄養状態改善の恩恵を受けて、重症疾患をみる機会が減りました。医療が進歩、細分化し、子どもたちは小児科だけでなく、耳鼻科や皮膚科、内科にも受診します。一方、子どもの虐待や貧困は、新聞にも大きく取り上げられ社会問題になっています。医療機関以外では、学校など教育機関の先生方は発達障害の子どもたちも含めてすべての子どもたちの教育に大変努力されています。子どもたちの悩みは、教科書に書いていないことだらけです。沖中先生が活躍された時代より情報へのアクセスは比べ物にならないくらい改善し、「物知りな医師」は増えましたが、論文を読むだけでは目の前の子どもたちは癒せません。知識と実践知の両方を絶え間なく進歩させることが医療者の責務です。少子高齢化の中、小児医療は変革期を迎えています。医師が病気治しだけをやっていればよかった時代は終わり、医師も子どもと家族をケアする時代がやってきました。「子どもは社会の窓」なのです。 私自身、もともとは内科医、家庭医のトレーニングを受けてきましたので、小児診療への苦手意識をずいぶん長くもってきました。小児診療で困ることは今でもたくさんあります。この本は、小児科医だけでなく、子どもをみるすべての科の医師のためになるようにエビデンスに基づいて書いています。エビデンスがないところは、全国各地の私の頼れる先輩後輩医師からたくさんの助言をいただいて、「エビデンスとエビデンスの隙間」を私自身が会得した臨床のコツとともに書いています。あなたがご存じの医師の名前も文中に出てくるかもしれません。小児医療初心者の方からベテランまで、それぞれのレベルで楽しめる本になったと思っています。小児科だけで子どもをみるのではなく、診療科にかかわらず、診察や処置に伴う子どもの苦痛を最小限にする努力をし、子どもと家族に敬意をもって生涯勉強し続ける医師が子どもの診療を行うべきです。私自身まだまだ不十分なところもありますが、この不十分さが伸びしろ、勉強しがいのあるところでワクワクします。
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