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左合治彦 さごう はるひこ ● 国立成育医療研究センター 副院長/周産期・母性診療センター長胎児治療の わが国と世界の現状1717世界における胎児治療の歩み 胎児治療法には、母体に薬物を投与して経胎盤的に内科的治療を行う方法と、超音波ガイド下、胎児鏡下、直視下で胎児・胎盤に手術操作を加える外科的治療を行う方法とがある。胎児治療法の歩みとは胎児外科治療の歩みでもある。胎児外科治療の軌跡を表11)に示す。 1963年に免疫性胎児水腫に対して、X線下で胎児の腹腔内へ輸血を行ったのが胎児治療の最初とされている。1970年代には胎児鏡が開発され、子宮内に挿入して胎児を直接観察することができるようになった。胎児輸血などにも応用されたが、胎児鏡の径が大きく侵襲が大きいため普及しなかった。1980年代になって、胎児治療というにふさわしい治療を行う時代が始まった。超音波診断装置の進歩により、超音波診断技術と、それを用いた治療法が発展した。まず、胎児輸血が超音波ガイド下で行われるようになった。次に膀胱−羊水腔シャント術、胸腔−羊水腔シャント術など、シャント術が超音波ガイド下で経皮的に行われるようになった。また、米国の小児外科医であるHarrisonらによって、尿路閉塞症、先天性肺囊胞性腺腫様奇形(congenital cystic adenomatoid malformation;CCAM)、先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia;CDH)に対して、子宮はじめに 胎児治療は、胎児疾患の管理法の1つである。多くの胎児疾患は生後の治療で十分管理されるが、一部の疾患は出生後まで治療が待てない状態で、そのような児を何とかしたいという意図から胎児治療は始まった。子宮内の胎児の状態が分かるようになり、胎児疾患が診断されるようになってから、まだ半世紀しか経っていない。胎児治療は出生前診断技術の進歩とともに歩んできたといえ、その歴史は新しい。また、ほとんどの胎児治療は何らかの外科的侵襲を伴うもので、外科技術の進歩や、それを支える内視鏡や超音波診断装置の進歩とともに発展してきた。 このように、胎児が疾患を有することを診断できるようになり、“fetus as a patient”、“the unborn patient”の考え方が生まれ、胎児治療が始まった。一部の胎児治療法は日常診療の一部として行われるようになったが、多くの胎児治療法はいまだ実験的治療と考えられる。世界における胎児治療の歩みと、それを追いかけてきた日本の胎児治療の今までの歩みを振り返り、胎児治療の現状とそのエビデンスレベル、そして胎児治療の今後の展望について述べる。

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