402350600
3/20

 胎児鏡で子宮の中を覗き、胎児に対峙したとき、いつも敬虔な気持ちになります。羊水の中に浮かんだその姿は、まるで宇宙遊泳をしている飛行士のようであり、すでに命の息吹が吹き込まれているにもかかわらず、神秘的な様相を醸し出しています。 画像診断技術の進歩とともに、1981年にはFletcherらによって、“The fetus as a patient”という概念が、倫理的側面から初めて学術誌に論じられました。さまざまな医療機器の進歩によって、母体内に存在する胎児に対する観察が可能になり、医療介入がなされるようになっていた時代です。それから20年を経た2004年には、福岡市において、The Fetus as a Patient 2004 Fukuoka(宣言)が採択されました。当時、胎児治療のための米国留学を終えて日本での治療を開始しようとしていた矢先の私には、胎児を一人の患者さんとして扱う、という宣言が高らかになされたことは感慨深いものでした。 現在、日本では、双胎間輸血症候群や胎児胸水への胎児治療はすでに保険収載され、先天性横隔膜ヘルニアや胎児不整脈、脊髄髄膜瘤、先天性心疾患などに対する治療も臨床研究の段階へと入っています。一方、海外では、その先へと進んだ技術も多々あります。遺伝子診断やゲノム編集の進歩によって、もしかしたらヒトへの臨床応用が行われる日が訪れるかもしれません。また、日本でも長年研究されてきた人工子宮によって、胎児治療の更なる飛躍が訪れることも期待されます。 このような胎児治療の発展期に、胎児治療の対象となる疾患を中心に診断と治療をまとめた体系的な本書を刊行できることは、胎児治療に携わる一人の医師としてこの上ない喜びであります。本書では、日本の胎児治療の黎明期を切り開いてこられた大先輩の皆さまから、現在、臨床や研究の現場で、胎児に対してさまざまな立場で対応されている方々にご執筆いただきました。この場であらためて御礼申し上げます。 2020年は、人類にとって忘れることのできない一年になっていると思います。今年の最初に中国から始まったCOVID-19の世界的な蔓延は、経済のみな1序 文

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る