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 新型コロナウイルスは病態が十分解明されていないという点でステルス性を持っていると言えます。気付かぬ間に身体に感染するのとは別に、理解を超えたものや得体の知れないものに恐怖を覚える我々の心の中に侵入してきます。結果として、感染を防ごうとする医療者の理性と冷静な判断力を奪い、パニックを引き起こすのがこのウイルスの厄介なところです。精度の高い診断法も効果的な治療法も確立していない不安定な状況がさらに我々の恐怖感を増長させます。不安に駆られて病診連携の絆を崩すような行動に出ると、これまで世界有数の成績を維持してきた我が国の周産期医療に大きな打撃を与えてしまいます。本書では首都圏の感染拡大の中で、周産期医療の体制維持のために獅子奮闘された先生方に彼らが構築した仕組みについて詳細に解説していただきました。感染症対策の体制作りの参考にしてください。 私も近隣の複数の施設で院内感染が発生した際には背筋が凍る思いがしました。感染対策といっても既にマスクなどの医療資源は欠乏しており、具体的に何から始めてよいかわからず、右往左往するばかりでした。感染対策の基本を理解していればもっと冷静になれたと思います。本書では新型コロナウイルスの病態、妊婦への影響、検査方法、パンデミックへの対応、感染妊婦の分娩、新生児の扱い、3密回避の中でストレスを抱えている妊産婦の精神的ケアなどについて専門の先生方が現時点でのエビデンスに基づいた貴重な情報を提示してくださいました。産科の臨床現場ですぐに役立つ知識だと思います。さらに感染症対策の専門の方に産科の臨床現場で必要な感染防御の基本について解説していただきました。その多くは新型コロナウイルスに限らずさまざまな感染症への対策にもなります。 本書で新型コロナウイルスの病態について理解を深めた上で効果的な感染防御でガードを固めつつ冷静に対応すれば、ステルス性の高いウイルスといえども容易に心身に忍び込んでは来れません。周産期に関わる全てのスタッフがこのテキストを参考にウイルスを正しく恐れ、冷静に対応することで、母児は言うに及ばず、周産期に関わるスタッフ全員が無事に波を乗り越えることを祈ってます。 2020年8月橋井 康二はじめに5

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