12 先天性血管異常・病変といった場合,それは生下時に存在すること(presence at birth)を意味することが多い.その意味で,出生時もしくは出生前に心不全で発症するガレン大静脈瘤 (vein of Galen aneurysmal malformation)や硬膜形成異常(dural sinus malformation)は,先天性血管奇形と言える〔Komiyama 2004c〕.しかし,動静脈発生の初期の血管構築が動静脈奇形(AVM)の血管構築に似ているとされるが,その時期に病変が形成されるといった証拠はない.新生児期に脳出血で発症するAVMがまれにあるが,多くの症例は,思春期や成人になってから症候性となる.思春期以降に発症する場合,病変そのものは,生下時に存在するものの,けいれんや脳出血の症状を初めて出す時期が成人期であるという考え方と病変そのものが,出生後の小児期から成人期に形成され,症候性になるという考え方があり,恐らく大半が後者だと思われる〔Lasjaunias 1997〕.仮に多くのAVMが,出生前に形成されているとすれば,新生児期や乳児期に症候性になる病変がもっと多いと考えられる.出生時や新生児期には存在せず,その後に形成される,つまり出生後という意味で「後天的に」形成されるほうが多いと考えられる.「生下時」という意味は,受精から時間的に約40週を経過した時点であり,病変がこの時点で形成されている,されていないを論じることは,AVMの成因を考えるときにはあまり意味はない.多くの哺乳類が,出生とともに歩行が可能であるのに,ヒトの場合,歩行するようになるのに1年以上かかってしまうのは,大脳の進化・巨大化のため産道(birth canal)を頭部が通過できるためには,生理的早産(ヒトでは,40週ころ)で出生するしかなくなったためである.また,ヒトの血管系は出生時に十分に発達・成熟しているのではなく,脳静脈系が大人の形態に近づくのは,2歳のころとされる.このように胎生期20週過ぎから診断可能な「先天的な=congenital」血管奇形もあれば,成人になってから診断される「後天的=acquired」な血管奇形もあり,AVMに,ことさら「先天性=生下時にある」という疾患概念で考える意味はないと思われる〔小宮山 2011〕.1.2.1. 遺伝性出血性毛細血管拡張症 hereditary hemorrhagic telangiectasia (HHT) 血管内膜の形成異常により全身の血管に動静脈瘻・奇形が起こる常染色体優性の遺伝性疾患に遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT)がある.Rendu-Osler-Weber病,単にオスラー病とも呼ばれる〔Osler 1901〕.以前考えられていたよりも高頻度の疾患と考えられるようになってきた.en-doglin遺伝子とactivin receptor-like kinase type I(ALK-1)遺伝子の変異が分かっており,それぞれHHT1とHHT2と呼ばれる.endoglin geneは9q染色体に,ALK-1 geneは12q遺伝子にある(染色体の短腕はpで,長腕はqと表記され,フランス語の小さい〔petit〕で覚える).またHHTには,この2つ以外の遺伝子の変異も存在するとされる.このendoglinとALK-1はtransforming growth factor-beta(TGF-β)の信号伝達系に重要な役割を担っている.TGF-βは強い血管新生因子であり,血管内皮細胞,平滑筋,周皮細胞(pericyte)による細胞外matrixの産生をコントロールすることにより血管のremodelingを行う.endoglinとALK-1は主に血管内皮細胞に発現し,TGF-β1と結合し血管新生angiogenesisの過程に影響する.正常に働くendoglinとALK-1の欠ける血管内皮細胞は,TGF-β1に対して異なる反応をするため,異常血管の形成や中枢神経系を含めた多臓器内の血管奇形の形成につながる.1.2血管の発生異常abnormal vasculogenesis and angiogenesis
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