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1 脳・脊髄の古典的な解剖の知見は,古くは紀元前のアレキサンドリアのHerophilus〔335-280 BC〕やGalen〔129- 201 AD〕の時代に得られている.しかし正確な脳・脊髄の血管解剖が分かってくるのはルネッサンスを迎える16世紀になってからである.脳・脊髄の正常解剖(static anatomy)やそのvariationの知見の多くは18世紀の初めにはすでによく知れられている.発生学的な知見の多くは19世紀から20世紀前半に得られた〔Streeter 1915,Congdon 1922,Watts 1934,Suh 1938,Padget 1948〕.これらの知見が20世紀後半になり脳・脊髄血管撮影が一般化し,生体での生きた血管解剖として確認されるようになり臨床応用されるようになった.脳神経外科領域では,1970年代にマイクロサージェリーの普及により局所脳解剖の理解の必要性が増した.さらに1980年代には,MR(magnetic resonance)technologyの進歩で非侵襲的に生きた脳・脊髄解剖の描出が可能になった.それと同時期に脳血管内治療が発展・普及するにつれ,脳血管の機能解剖の理解の重要性が増してきた.われわれが新しい解剖学的知見と思うような血管構築の多くは,すでに過去に報告され知られたものが多い.脳神経外科の手術に脳の生理(physiology)と局所脳解剖(topographical anatomy)の知識が重要である〔Axel Perneczky 1988,personal communication in Vienna〕と同様に,脳血管内治療を行うには脳血管の機能血管解剖(functional vascular anatomy)の知識は重要である.脳血管内治療だけでなく,この機能解剖の知識は,脳血管病変の病態をよりよく理解し,治療をより安全に行うためにも重要である. 脳・脊髄の血管解剖は機能的に種々の状況で大きく変化するため,この動的変化を考慮した機能解剖の知識が重要である.個体発生(ontogeny)や系統発生(phylogeny),つまり発生(development)や進化(evolution)の知識(合わせてevolutionary developmental biology,短くEvo-Devoとも言われる)は,機能解剖や種々のvariationの理解に役立つ.この血管のvariationは,通常の発達からのdeviationとして多くは説明可能であり,他の哺乳動物や下等脊椎動物に認められることも多い〔小宮山 2004a,小宮山 2005a〕. 近年,血管撮影装置が進歩し,flat panel detector(FPD)がimage intensifierに代わり普及した.そのため以前は確認できなかった細い血管も認識可能になってきた.2007年ごろからは,画像情報はdigital化され,filmlessの時代に入った.しかし,いくら画像のqualityが上っても,血管解剖の知識がなければ見えている血管も認識できないことがある.脳血管内治療をできるだけ安全に行い,合併症を最小限にするために血管解剖の知識は必要かつ不可欠である.また複雑に見える脳・脊髄血管構築も,意外に単純な法則や自然の摂理で決まっていることに驚かされることがある.頭蓋内外の動脈吻合の理解には,脳硬膜動静脈瘻の血管構築の理解が非常に有用であり,頭蓋内の動脈の側副路の理解には,もやもや病の血管構築の理解が有用である〔Komiyama 2003a〕.これら2疾患の血管構築は,脳・脊髄血管の機能解剖の生きた教科書のように考えられる.また脳動脈奇形や脳硬膜動静脈瘻を含め動静脈シャントを有する疾患の導出路の理解は,variationの多い脳静脈解剖の理解に有用である〔小宮山 2009b〕.新生児期の種々の血管病変の血管構築も病的な血管病変の形成の理解に有用である.このように不思議な宝箱のような脳・脊髄血管の機能解剖について発生学的な背景を考えながら,古典的な脳・脊髄血管解剖とともに解説を試みる.大阪市立総合医療センター 脳血管内治療科主任部長 小宮山 雅樹はじめに

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