402380281
10/14

2 本書の初版である『クリッピング・バイパス・CEAの論理と技術』の総論の最後を,私は以下ように締めくくっています. 「四半世紀にわたり脳神経外科の道をたどることで得られたいろいろな雑感を書き記し,手術論の総論にかえました.10年後に私がどのようなことを考えているかが楽しみでもあります.でも私に10年後があることを規定しているあたりに私の傲慢さがあるのかもしれません.『おもしろきこともなき世をおもしろく』は高杉晋作の辞世の句ですが,おもしろき脳神経外科の道を,少なくともまた明日はたどることができるということは大きな希望です.ビークルとしてコンテンツを送り続けることのおもしろさを下の世代に伝えていければ,これに勝る幸せはありません」 まだ10年は経過しておりませんが,幸い生き永らえ,還暦を迎えました.現在,手術にはあまり携わっていませんが,手術評論家を自称初版の総論を振り返ってしていまだ手術について考えることは続けています.その後,この世の中は大きく変貌し,脳神経外科,脳卒中外科といった医療の分野でも血管内治療が隆盛し,地域包括ケアシステムやら,医師の働き方改革やら,新専門医制度やら,いろいろな課題に満ちあふれています. 眼の前の困難,はるか向こうにある障害,実におもしろいですね.さてもう一回総論を始めますが,今回は社会や制度など扱うテーマを大きく取って,メタな視点からも俯瞰しようと思います.どうやったら本書のテーマである「リクツとワザ」に着地できるでしょうか.なお,この新しい総論を記述するにあたり,これまでいろいろなところで書いた断片を寄せ集めていることをお断りしておきます.その中でも,昔の考えと変わっていないところ,修正を要するところ,大幅に変わったところ,いろいろあります.だって人間生きているのですから,変わらなければおもしろくありません.それらをまとめるとこんな物語になるということで,ご一読いただければ幸いです. 平成27年6月に厚生労働省が公表した『保健医療2035提言書』1)では,「疾病の治癒と生命維持を主目的とする『キュア中心』の時代から,慢性疾患や一定の支障を抱えても生活の質を維持・向上させ,身体的のみならず精神的・社会的な意味も含めた健康を保つことを目指す『ケア中心』の時代への転換」をすべきとあります.また『ナイチンゲール看護論・入門』2)では「医キュアは目的ではなくなったリクツとワザを導き出すもの

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る