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iii新版の序文 本書の初版の奥付に,発行日が2011年3月15日とある.東日本大震災の4日後である.しかし実際には拙著は既に発刊されていて,長時間揺れ続けた私の部屋の机には真新しいこの教科書が載っていた.それから既に8年弱が経過した. 地震から間もない頃は,地震を契機にいろいろなことが変わった,と思っていた.被災地では風景に消えない痕跡を残している.秋田では表面上はそれほど変わったことがないが,われわれのいろいろな意識や価値観は変わっている.しかしそういった変化は当たり前になって根付いているので,いま取り立てて指摘することはできなくなっている. さて,社会全般に限らず,脳神経外科,脳卒中治療の狭い範囲でも,血管内治療の標準治療化など,この8年でものすごく変化した.初版を手にとって振り返ってみると,参照点が大きく変わったことで時代遅れになってはいないかと危惧したが,治療の論理(リクツ)や技術の本質(ワザ)は普遍的で,それほど変わっていないことにあらためて気がついた. 初版では,あたかも文芸書の単行本についてそれを書いた物書きが一人で責任を負っているかのように,本の中のあらゆる文章を自分で書くということが目標であった.子どもの頃から物書きに憧れていた私は,文学書ではなく教科書で,自分の夢を実現させたのである. 初版を出したあと,『脳神経外科速報』に数編の論文を書いた.それに加えて手術に関連した他の教科書の章を分担執筆した.医療に関する覚え書きのようなものも数編書いた.加えて,私が北海道大学時代に手術を教えた(というか一緒に手術に取り組んだ)中山若樹先生が,closure lineの考え方をより精緻に理論化した論文を書いてくれた.同じテーマを対象に,私と似通っていながらしかも位相差をもったもうひとりの視点で光を与えてやることで,より立体的に対象が捉えられるようになった.この新版はそれらを初版と一緒くたに煮込んで,一部は初出のときにはやや拙劣だった場所に手を加えてあらためて出版させていただいたものである.半分ほど内容が重複していることはお許し願いたい. 私はこの数年,管理職が板について,手術を自分でやるどころか,手術室に足を運んだり,自室で手術室の映像をチェックしたりすることすらほとんどなくなってしまった.

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