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頭蓋内動脈ステントのすべて iii 脳血管内治療の発展は驚くほど急速に進んでいますが,機器の開発と改良,それを使いこなす技術の進歩が脳血管内治療発展の基盤となっていることは言うまでもありません. これまでも血管内治療の発展に重要な契機をもたらした機器は多数ありますが,ステントはその代表と言って過言ではありません.ステントはCharles R. Stentという19世紀に活動した歯科医の名前に由来しており,歯科ではグラフト固定用の鋳型をステントと呼んでいます.医科では血管や胆管,食道など管腔を支える機器をステントと総称しており,血管領域ではJulio Palmazが開発した末梢動脈用ステント・Palmaz stent(1985年),冠動脈用のPalmaz-Schatz stent(1987年)を皮切りに爆発的な進歩を遂げ,下肢や冠動脈疾患では早くから使われ出し,広い意味での脳血管である鎖骨下動脈や頭蓋外の椎骨動脈,頚動脈へは下肢用ステントがそのまま応用されてきました.そして頚部頚動脈狭窄症に対する頚動脈ステントは1990年代から自己拡張型ステントの開発が進み,わが国でも積極的に活用されています. 頭蓋内動脈へは冠動脈用に開発されたバルーン拡張型ステントがまず導入されました.しかし,頭蓋内動脈は直線状に走行している部分はほとんどなく,また血管解離や血管損傷などが生じると致命的な合併症につながるため,当初は他に有効な治療法がない脳動脈瘤や脳動脈狭窄などに限定してステントが使用されていました.2000年代になってようやくバルーン拡張型ステントの欠点を解消する脳動脈専用の自己拡張型ステントが開発され,本格的な頭蓋内ステントの時代を迎えることになります. すでにわが国でも脳動脈瘤コイル塞栓術支援用ステント,Flow Diverter,頭蓋内動脈狭窄症治療用ステント,そして本書では触れませんでしたがステント型血栓回収機器が市販されており,今後も導入予定の頭蓋内動脈ステントは目白押しです. 本書は,現在導入されている頭蓋内動脈ステントだけではなく,今後導入予定のステントやFlow Diverterも取り上げ,その特徴や他の機器との違いなどをわかりやすく解説しました.脳血管内治療に取り組む専門医のみならず,脳血管疾患の診断と治療に関係する医師やメディカルスタッフ,そして脳血管疾患の治療に関係するすべての方々に役立つことを願っています.2017年1月神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経外科部長・総合脳卒中センター長坂井 信幸序 文
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