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5血管と交通を持つようになるのだ.この現象はfibrovascular reactionとも言われている. 一方,外膜と内膜の形成に従って,次第にくも膜下の髄液槽と形成された硬膜下腔との交通は途絶すると,いわゆる慢性硬膜下水腫とかpersistent traumatic subdural fluid collectionという状態になるのだ.この硬膜下水腫の時期は多くは無症状だが,頭部外傷後数週間後にCTで偶然に見つかることがある.A君も見たことがあるよね?研修医A はい.ありますが,その後のCTでは消えてなくなりました.教授M この水腫状態はしばらく続いた後に自然消退することがあるが,あるものは外膜の新生血管がさらに増殖をきたす場合もあるんだ.そうすると,これらの新生血管は血管透過性が高く血漿成分の漏出をきたして,硬膜腔のさらなる拡大が起きるのだ.ところで,A君は慢性硬膜下血腫の外膜の病理標本を見たことがあるかい?研修医A ないです.教授M 血腫外膜は線維成分が多い層や,毛細血管やsinusoidが多い層から成ると言われているが,実際には個々の慢性硬膜下血腫や時期によって病理所見は違うのだ.若くて元気が良い外膜には多くの毛細血管が認められるが,年取った外膜は線維成分が主体で毛細血管は少ないんだよ.すなわち,慢性硬膜下血腫自体にもageingがあると言えるね.各ステージの血腫外膜の病理写真を見せてあげよう(図2).また,興味深いことに外膜には好中球やリンパ球などの他に好酸球の浸潤も見られることもあるのだ.だから,昔の大病理学者であるVirchow先生は慢性硬膜下血腫の原因を炎症と考えて,“pachymeningitis interna haemorrhagica”と命名したぐらいだ.この100年以上前に提唱された炎症説は現在でも通用しており,実際,血腫内溶液にはinterleuken-6(IL-6)などの炎症性cytokine が増加していたり,外膜の炎症細胞に血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)産生を認めるなど,fibrovascular reactionに炎症過程が関与しているようなんだ.研修医A 先生は意外と博学ですね.教授M ようやくわかったかね,ふふふ.さて,話を慢性硬膜下血腫の成因に戻そう.先ほど説明したように,新生血管からの血漿成分の活動的漏出によって拡大して形成された硬膜下水腫は,今度は外膜の脆弱な血管の持続的な破綻性出血をきたして水腫から血腫に変身するんだ.これは慢性硬膜下血腫の形成期と言えるね.この段階でも無症状の場合は自然に吸収消退する場合もあるんだ.だけど,外膜からの破綻性出血が続き,吸収を上回るようになり血腫のさらなる増大をきたすと,大脳の圧迫症状が出現するのだ.この時期は慢性硬膜下血腫の成熟期と言えるだろう.この症状をきたした成熟期の慢性硬膜下血腫が手術の対象となることが多いんだ.その後の外膜内の毛細血管は次第に減少し、線維
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