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21 脳神経外科医にとって,慢性硬膜下血腫はあまりにも日常的疾患であるため,何も勉強しなくても,先輩の言うままに簡単な手術をすれば何も問題なく患者も元気になって退院することが多いことから,軽視しがちである(“またマンコーケツかよ”と私の医局員も言っている). 多くの脳神経外科医にとって人生最初の手術は慢性硬膜下血腫であり,そのささやかな最初の成功体験が将来の優秀な脳神経外科医の心の支えになっていると思われる.しかしながら,慢性硬膜下血腫の成因は複雑怪奇であり,また対象患者が高齢であるがゆえに思わぬ落とし穴があることも事実である.私自身,血小板減少症を伴ったBanti症候群の患者に合併した慢性硬膜下血腫の症例に対して血小板輸血をしながら穿頭血腫除去術を施行したところ,深夜になって意識障害が出現した.そのためCTを施行すると急性硬膜下血腫を認めたため,泣きながら血小板と新鮮凍結血漿を輸血して緊急開頭血腫除去術を施行したが出血が止まらず,死亡した苦い経験がある.この経験を“マンコーケツ”と馬鹿にする若い脳神経外科医に話すとともに,私自身もときどき思い出しては,あの場合はtwist-drillによるドレナージだけにすべきだったかと反省している. 本稿はもともと,『脳神経外科速報』誌に掲載したものである.同誌から慢性硬膜下血腫に関する「私の工夫」企画についての総説原稿依頼があり快諾させていただいたのだが,お恥ずかしい話ではあるが,私自身10 年前に同誌に「慢性硬膜下血腫の病態と治療」という総説を書いていたことをすっかり忘れていたのである1). これ自体,私自身も心のなかで慢性硬膜下血腫を軽視している証拠であり,反省するとともに,本稿では「初学者のために」と題して,対話のスタイルで,若い読者の皆さんに気軽にお読みいただけるように工夫させていただいた.これをお読みになって,慢性硬膜下血腫について少しでも興味をもって,本書を読み進めていただくきっかけとなれば幸いである.はじめに慢性硬膜下血腫よもやま話―初学者のために
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