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3 脳SPECTパーフェクトガイド序文 ―神経内科医の立場から神経疾患の確定診断のためには,神経学的診察による部位診断と病歴聴取による原因診断が必要である.それぞれの神経疾患は脳の障害部位の分布に一定の傾向があり,神経心理学的症状を含めた症候学も一定のパターンを呈することが多い.したがって,神経疾患においては,それぞれの疾患の巣症状ないしその組み合わせに由来する特徴的な症候のパターンを捉えることによって(例外的な非典型例も含めて),臨床診断が行われている.もちろん,この過程で脳脊髄液検査や画像検査などの補助検査も重要な役割を果たしている.そして,確定した臨床診断に基づいて治療計画が立案される.高齢化社会とともに急速に増加している認知症は大脳の器質的な疾患によって惹起される症候群であり,意識障害を「急性脳不全」とすると,認知症は「慢性脳不全」と称されるべき病態であると言われている.したがって,認知症の診断においても基本的なプロセスは一般神経疾患の場合と同様であり,類型診断としての認知症診断を正確に行うためには,神経学的診察,精神症状や行動異常の観察,神経心理学的検査が必須である.認知症の診療プロセスとしては,病歴を聴取し,身体所見や神経学的所見をとり,神経心理検査,血液検査,画像検査,脳波などを行い,軽度認知障害(MCI)やうつ病による仮性認知症,せん妄,てんかんなどを除外し,代謝性疾患や正常圧水頭症などの治療可能な認知症を鑑別する.したがって,幅広い神経学や内科学の知識,素養が必要である.一方,以上の鑑別診断の過程において,MRIやCTの形態画像やSPECTやPETの機能画像がベッドサイドでの所見を支持ないし補完するうえで重要な役割を果たしている.例えば,レビー小体型認知症によるうつ症状で食思不振があり,るい痩をきたしていると考えられていた症例が,脳SPECTで前頭側頭葉の血流低下が顕著であったことより,診断が洗い直され,運動ニューロン疾患を伴う前頭側頭型認知症と診断された例を経験した.SPECTはPETに比して装置が安価であることから多くの病院が導入しているため,神経疾患の臨床における意義は極めて大きい.本書は,主要な精神・神経疾患での脳SPECTを含めた画像所見を提示することにより,SPECTの臨床現場における活用を促進することを目的の一つとしている.本書が脳SPECTにかかわるすべての医療関係者のお役に立てれば幸甚である.2018年1月筑波大学医学医療系神経内科学 玉岡 晃

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