第1章大脳白質解剖概論3を用いたfiber dissection studyは,重要な役割を担う. 「脳と機能」に関する考え方は,古来議論が続いてきた.古くは「すべての脳組織が等価に接続するネットワークとして機能発現に関与する」とした全体論(holistic view)に対して,「脳機能は特定の脳領域の働きにより発現する」とする局在論(localizationistic view)の対立があった.Paul Broca(ポール・ブローカ,1824-1880),Brodmann(ブロードマン,1868-1918),Penfield(ペンフィールド,1891-1976)ら多数の業績を経て,大脳皮質の詳細地図や運動・感覚,連合論的脳機能観(図1)聴覚,視覚系の一次中枢が同定される一方,全体論に必要な脳領域の等価性・機能代償性についてこれを支持する証拠が挙がらず,脳の機能を全体論で説明できないことが明白となった. 以後,特に臨床系医学の世界では,長く局在論的な見方に基づいた臨床・研究が行われてきた.しかし,より複雑な情報処理過程や高次脳機能に関して,局在論での対応が困難な部分が少なからずあること,近年の神経科学的知見の集積により,脳がネットワークとして機能を担っており,全体論と局在論の中間的な存在である連合論(associationistic view)が台頭するに至った.図1は,脳と機能に関する考え方を模式化したものである. 全体論とは,すなわち大脳のすべての皮質領域 上段に3種類の脳機能観を示し,下段にそれぞれのモデルにおいて一部の脳領域に損傷をきたした場合に生じる機能低下を示す.全体論では脳組織は全体として等価なネットワークで構成され,すべての機能を脳全体で処理すると考えるため,一部の脳領域の損傷は,その他の脳領域の応分の機能低下で説明される.局在論では,機能が脳の組織ごとに局在すると考えるため,一部の脳領域の損傷は,すなわち当該領域の機能の低下として説明される.前二者の中間形である連合論では,機能は複数の脳領域のサブネットワークで遂行されるため,一部の脳領域の損傷は,同部の機能喪失に加えてネットワークの接続しているその他の脳領域の機能の変容を伴うと説明される.図1脳と機能に関するモデル(模式図)(文献3を改変)全体論的脳機能観局在論的脳機能観連合論的脳機能観
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