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 絵を描く,料理を作る.同じ材料と道具を使っているのに,ある人がすると非常に洗練されたでき上がりになるのはなぜであろうか.脳血管内治療にも共通する.同じ道具を使ってうまくできる術者とうまくできない術者がいる. この差はどこからくるのか言うまでもなく,個々の症例の病態分析が十分か,治療のポイントを認識しているか,どの器具が最も適切か,またそれらをどのように組み合わせて,どういう順番に使っていくか,などなど,多くの点で経験に裏打ちされて培われた工夫や処理方法を持っているか,いないかの差である. 脳血管内治療の書物が多く出版されてきているが,治療現場での具体的な「コツ・手順・次の一手」を網羅した書はいまだない.実臨床では,全く同じという症例はなく,症例ごとに違った治療上の問題が出てくるものである.術者としてこれをうまく乗り越えると大変満足である.このうまくいったときの手順をいつまでも記憶できればいいのだが,結構忘れてしまうことが多い.小生はよく忘れるほうなので,忘れないように手順や注意すべきことを手帳にメモしている.自分のための手帳なので,簡単なメモでも,一見しただけですぐ全体を思い出せるのであるが,治療現場にいなかった第三者に「うまくできるコツ・手順」を説明し理解してもらうことは案外難しい.この「コツ・手順」,寺田友昭先生らの言う「次の一手」を理解してもらうためには,丁寧に説明しかつ動画で実際の手技を見せないことには困難であることがほとんどである.これにはかなりの努力が必要である. 寺田先生はじめ寺田門下の先生方は,メディカ出版の『脳神経外科速報』に,治療困難な症例で経験された,うまく治療するための「次の一手」を図・画像・動画を活用し,平易で簡潔な文章で,シリーズで発表してこられた.小生もこの連載記事を読んでいたが,大変理解しやすく,また幾度か「これは役に立つなあ」と思い,何冊か手元に置いていた. この度,今まで発表してこられた「次の一手」シリーズを元に,テーマごとにまとめられ,一冊の単行本として出版されるということで,記事をまとめて読むことができるようになり,大変ありがたいと思っている.達人たちの「次の一手」の集大成の本である,脳血管内治療医の技術を向上させるための必読書,何回も読みかえすべき書である. 最後にもう一言,脳血管内治療の治療器具は日進月歩であり短期間に変化してくるものなので,著者の先生方にはご苦労とは思いますが,定期的に改訂していただきたいと思います.三重大学名誉教授滝 和郎3脳神経血管内治療 次の一手推薦のことば

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