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2 ………疫 学1 膵臓は、腺房細胞からなる外分泌腺、ランゲルハンス島からなる内分泌腺が混在する特異な臓器であり、いずれも発生学的に内胚葉の前腸より発生します。膵臓に発生する腫瘍は多彩であり、本邦では『膵癌取扱い規約』において、国際的にはUICC/WHOにて分類がなされています。『膵癌取扱い規約(第7版)』では組織所見の項に分類が記され、上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍、さらに上皮性腫瘍は外分泌腫瘍と内分泌腫瘍、併存腫瘍、分化方向の不明な腫瘍に分けられ、外分泌腫瘍の中に浸潤性膵管癌が分類されています。 いわゆる膵癌は浸潤性膵管癌であり、以前は形態から膵管細胞からの発癌が想定されていましたが、近年膵腺房細胞からであることが明らかとなってきました1)。浸潤性膵管癌は腺癌・腺扁平上皮癌・粘液癌・退形成癌を含み、膵腫瘍全体の70%以上を占めます。組織学的には間質浸潤を伴う癌腫で、膵管類似の腺腔形成や膵管上皮への分化が見られるものです。『膵癌取扱い規約(第7版)』では優勢像をもって腺癌・腺扁平上皮癌・粘液癌・退形成癌を分類し、WHO分類では最も悪性度の高い組織型をもって分類するという違いがあります。 その他、膵管内腫瘍も定義され、その中にIPMNといわれる膵管内乳頭粘液性腫瘍、ITPNといわれる膵管内管状乳頭腫瘍、PanINといわれる膵上皮内腫瘍性病変が分類されています。各々特徴的な所見を呈する腫瘍ですが、いずれも膵管内に発生し、遺伝子変異も浸潤性膵管癌と異なります。 厚生労働省発表の人口動態統計によると2)、高齢化も相まって膵癌による年間粗死亡率は年々増加し、最新の2014(平成26)年統計では、男性では16,411人・全癌死亡者数の7.5%、女性では15,305人・10.2%を占め、肺癌、大腸癌、胃癌についで第4位と報告されています。一方、2011年統計での罹患推定数を見ると、男性は17,173人・3.4%で9位、女性は15,922人・4.4%で6位と粗死亡率に比べて順位が低くなっています3)。同一患者を追っているわけではないため単純な比較は困難ですが、少なくとも罹患数と死亡数が非常に近いことから悉しっ皆かい性せいがほぼ保たれていると考えられる人口動態統計上においても膵癌は予後の不良な疾患であることが示唆されます。同様に地域癌登録での5年相対生存率は6%前後で、他の癌と比べても際だって低いです4)。進行度別で見ると限局・領域・遠隔と分けると半数が遠隔転移であるものの(図1a)、5年生存率は限局に限ってみれば40%弱と早期の膵癌では比較的予後が期待できます(図1b)。 年齢調整死亡率にて死亡率の推移を見ると1990年まで一貫して増加してきた死亡率が男女ともに増加ペースはゆっくりとなったものの、子宮癌とともに年齢調整死亡率の増加している数少ない癌の1つとなっています(図2a)。また、罹患率でも一貫して軽度の増加がみられています(図2b)。 男女ともに年齢とともに罹患リスク・死亡リスクは上昇し、一生の間におおよそ45人に1人が膵癌と診断され、男性の53人に1人・女性の63人に1人が膵癌で死亡すると報告されています。2011年における罹患推定年齢中央値は約64歳で、年齢調1 膵癌の概念・定義2 人口動態統計、地域がん登録からみた膵癌の動向1膵癌の疫学京都大学医学研究科 肝胆膵・移植外科 講師 増井俊彦 同 教授 上本伸二

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