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2将来を見据えた肥満症治療白井厚治日本肥満症治療学会 前理事長 / 誠仁会みはま香取クリニック 院長1はじめに 現代医療において「高度肥満症」が一つの病気として認識されたのはごく最近である.糖尿病性腎症さらに腎不全,また心不全や突然死の促進因子であることは言うまでもない.高度肥満治療はかつてフォーミュラ食の登場で解決策が見いだされたかに思われたが,コンプライアンスの低さ(指導法の未熟さゆえ)で普及が進まなかった.そこに近年,肥満外科治療が導入された.当初は開腹術であったが腹腔鏡下の手術法が開発され,これが保険収載となり,今,急速に減量・代謝改善手術(MS)例が増加しつつある.MSは単に減量効果が著しいだけでなく,糖尿病改善,尿蛋白減少のほか代謝改善度も顕著であることに興味がもたれ,ますます注目を浴びる時代を迎えた.しかし,今,このMSはわが国でどの方向に発展するかの岐路に立っていることも事実である. 本稿では,なぜ岐路にあるのか,そして,両刃の剣である肥満外科治療を将来,わが国が世界で最も安全で効果があるとの評価を得るために何が必要か述べたい.高度肥満症の現状と対策の歴史 肥満症に関する健康被害は,すでに糖尿病とその関連合併症(腎症,網膜症),高血圧,脂質異常に加えて閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS),慢性腎臓病(CKD),心不全に及んでいることが知られており,わが国の医療費膨張の原因の一端ともなっている.事実,近年透析療法が導入された患者の過去最高体重を調べると,BMI 30以上が約30%みられた 1).国民平均の3%に比し約10倍の高頻度である.また,透析患者の合併症はこの過去最大BMIと明らかに比例していた.一方,減量により多くの合併症,特に腎機能低下も抑制される 2).この減量対策として食事療法で蛋白質,ミネラル,ビタミンを補うもエネルギー成分の炭水化物,脂質を極端にまで減らした蛋白保持半飢餓療法(protein sparing modified fasting,PSMF)は減量効果が顕著で代謝改善度も高く,栄養学的には問題なく解決策が見いだされたかに思われた 3).しかし,その施行法および指導法が未発達で,コンプライアンスが保てず普及が阻まれた経験がある.肥満症治療は結局患者本人が納得し取り組みをいかに続けるかにかかっており,医療側が単に「指導した」では事が済まない.内科的治療は,さまざま試みても減量効果は平均約-15%くらいであり,高度肥満症への内科的治療は正直限界を認めざるを得ない.そこに,近年,肥満外科療法が導入された次第である.肥満外科治療の光と影 MSの術式,手順などについての詳細は他章で述べられるが,2014年に腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG)が保険医療として認められ,以後急速に普及する傾向にある.これまで行われたわが国の手術成績の報告をみると,減量30%と顕著で安全性も高く,そして,比較的短期に糖尿病を中心とした代謝異常疾患の改善が顕著にみられていることも明らかにされた 4).12

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