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第章1高度肥満症の病態と治療将来を見据えた肥満症治療1 3わが国の肥満外科治療は,海外に比べやや出遅れ気味であったが質は担保されているようである.まずはおおむね順調な滑り出しと評価される. 無論,症例数は海外欧米,台湾などアジア各国と比べてもまだ少ないが,わが国では,外科医と内科医が連携し,当初から手術にあたり内科医のサポート体制のもとで行うこと,特に長期フォローアップは医療チームが整った体制のもとで行うとの申し合わせが行われ,慎重に始められた経緯がある 5). しかし,海外のMSの長期フォローアップ成績をみると,手術に関するさまざまな合併症とは別に,精神的トラブル,自殺の発生率が高いとの報告がみられる 6, 7).これは,かつて,超低カロリー食(VLCD)療法をフォーミュラ食を用いて行った際に,減量とともに見られたある一部の患者での精神的トラブル発生を経験したことから考えると,ごく当然の結果である.すなわち,減量で解決するかに思われる高度肥満症は,実は一般診療で診る理学的異常,代謝異常,臓器異常疾患に加えて,何らかの精神的問題を抱えた病態と認識すべきなのである.肥満は食事,特にエネルギー成分の過剰摂取があったわけであるが,それが肥満者にとっては,ある意味の精神安定をもたらしていたということを十分に考慮していなかったためである.したがって,手術後のリバウンド,あるいは,精神的不安定さや愁訴に一生苛まれ続ける患者,すなわち,「肥満外科難民」が発生することは十分予測されるのである.高度肥満症への外科治療で欠かせない肥満症の総合診断とは 高度肥満症に対する内科的治療に限界があったことの理由,特にVLCD療法がうまく普及しなかった理由は,結局精神的側面への配慮,アプローチが十分確立できていなかったからと言える.この苦い経験からすると高い減量効果を持つ肥満外科治療がまたその轍を踏む可能性は否定できない.ここで,高度肥満症の診断では,理学的あるいは臨床検査学的診断に加えて,パーソナリティの診断が必要なのである.結局,治療として,いわゆる行動変容を起こさせるために必要な診断項目なのである(図1). では,どのようにパーソナリティを分析し,それに基づきどのような対処をするかである.しかし残念ながら,現在確立した診断法はなく模索中である.高度肥満者を対象にロールシャッハテストを行い分析した成績では,ハイラムダ型が多いことが明らかとなっている 8).すなわち,現状逃避,問題意識を持てない,自分に都合よく解釈する,そして自発性がないなどの特性を持つ.さらに高度肥満者は,さまざまな精神的トラブルを抱えた症例が多いことが判明している 9).また,医療側も一生懸命指導しても減量効果が出にくく,根負けしてしまいがちである.診療から脱落すると精神的トラブルを抱えたまま,行き所がなく「高度肥満難民」とも呼ぶべき状態となる.これらを見据え,肥満症治療学会では「肥満症治療に必須な心理的背景の把握と対応」を刊行し,一案として高度肥満者のパーソナリティ特性を認知と行動の軸で4群に分け,混乱型,安定防御型,依存退行型,過剰適応型に分類している 10).高度肥満者の中核は混乱型でそれぞれの特性と対処案を掲載している.一度は,高度肥満症に携わる外科医や内科医には読んでいただきたい.今後,この方3高度肥満症の総合診断と治療体制図1内科医,外科医,精神科医,栄養士,臨床心理士食事療法(VLCD療法),外科療法精神的サポート・栄養代謝疾患・心血管・腎疾患・運動器疾患代謝・臓器異常診断パーソナリティ診断・行動様式・成育歴・社会・家庭環境(行動変容をもたらすために)

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