103手術手技①腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術(LRYGB)稲嶺 進 1*,益崎裕章 2*1* 琉球大学大学院医学研究科内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科) / 医療法人おもと会大浜第一病院外科 内視鏡外科部長,2* 同大学 教授7Web動画第章3メタボリックサージェリーの実際手術手技 ①腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術(LRYGB)7はじめに 高度肥満症患者の治療を目的とした胃バイパス術は1966年にMasonとItoらによって始められた 1).彼らのバイパスは空腸のループを胃上部の水平な胃嚢に吻合したもので,吻合部は1カ所のみであった.その後,治療成績向上と安全性の観点から諸家によってさまざまな変更が加えられ,胃上部小彎の垂直胃嚢を用いたRoux-Y型の胃バイパスに落ち着いている(図1).1980年代後半から腹腔鏡手術がさまざまな外科領域に広がっていったが,肥満外科領域では1994年Wittgroveらが腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術(LRYGB)を世界で初めて報告した 2).また2001年にRutledgeは小彎側の長い垂直胃管と空腸ループを1カ所のみ吻合を行うlaparoscopic one anastomosis gastric bypass(LOAGB)の有効性を報告した 3).当初,LOAGBはMasonらのループバイパス同様,減量効果不良や合併症が懸念されたが,その有用性から徐々に施行件数が増加している.Wittgroveの成功から25年以上経過し,現在ではほとんどの減量・代謝改善手術(MS)が腹腔鏡下に行われている. 胃バイパス術は安定した治療成績から半世紀以上にわたり世界で最も多く施行され,MSのゴールドスタンダードと言われていたが 4),近年では消化管吻合が不要なシンプルな術式である腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG)の施行件数が急速に増加してLRYGBを超えた.しかし,LSGだけで背景の異なるすべての肥満患者に対応することはできないので 5),LRYGBも必要に応じて施行できることが望ましい.本稿では筆者らが2004年から行っているHigaらの方法 6-8)に準拠したLRYGBの手技のポイントを解説する.手術適応・禁忌 手術適応は日本肥満症治療学会のガイドライン「肥満症の総合的治療ガイド」に則っている.体格的な必要条件としては減量が主目的の場合は「BMI 35以上」,糖尿病などの肥満関連健康障害の治療が主目的の場合は「BMI 32以上」である 9).良い適応は著明な逆流性食道炎の存在,多剤の抗糖尿病薬でもコントロール不良の糖尿病を合併するなどLSGの適応となりにくい症例である.禁忌は胃癌の発症リスクが高いHelico-bacter pylori感染の既往や萎縮性胃炎を伴う場合,術後の吻合部潰瘍のリスクが高い喫煙者としている.麻 酔 気管挿管による全身麻酔のみで硬膜外麻酔は行わない.気管挿管後,麻酔医に依頼し外径36 Fr(約12 mm)の胃管(または同程度の外径の上部消化管内視鏡)を経口的に挿入する.胃管は胃の減圧だけでなく,胃嚢のサイズや形状,胃空腸吻合部径を決めるブジーとして非常に重要である.また,MSの対象となる高度肥満症患者の麻酔は挿管だけでなく麻酔管理も難易度が高く,MSに関する十分な知識と経験を持った麻酔医が行うべきである.12
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