16はじめに 関節鏡は日本で開発されたわが国が誇るべき医療技術の一つである.近年の光学的技術,機械工学的技術,そして何よりも関節鏡視そのものの技術進歩が加わり,現在では関節鏡視下手術は関節外科領域の必要不可欠な手術法になっている1).関節鏡視下手術ができることは整形外科医を目指す者にとっては必須の条件だと言っても過言ではない. 関節鏡視下手術の最も重要なポイントは,関節内の自分の見たい部位を自由に鏡視でき,目的とする部位に手術器械を容易に到達できることである.そのためには十分な解剖学的知識と技術的な熟練が必要となる. 本章では,関節鏡視下手術をこれから始めようとする整形外科医を対象に,関節鏡視下手術の最も基本である膝関節鏡視下手術について,その基礎を解説する.本稿では膝関節鏡によって見えるもの,特に関節軟骨と半月板がどのように見えるのかについて解説する.膝関節鏡視で見えるもの 膝関節はその内面を滑膜で覆われた関節包で包まれており,その中に大腿脛骨関節と膝蓋大腿関節の2つの関節対向面が存在する.したがって,膝関節腔内に関節鏡を入れれば,この両方の関節を構成する関節軟骨面,半月板,靱帯などが観察でき,関節包を見ると,その内壁の滑膜の表面が観察できる.また,プローブを用いることによって,半月板の裏側などの隠れた部分を観察できるし(図1),プローブで組織を押してみることなどによって,表面の柔らかさ,軟骨損傷があればその深さなども触診できる(図2).ただし,関節鏡では,あくまでも表面だけが見えているのであって,例えば離断性骨軟骨炎など病変部位が軟骨下骨に存在するものでは,関節軟骨表面には変化が認められないことに留意する必要がある(図3).さらに,関節鏡は鋼製鏡(胃カメラのようにflexibleでない)であるため,挿入部位(通常は前方)からは他の組織に隠れて,直接見えない部分も存在する.また,挿入部のすぐ近傍は近過ぎて逆に見づらく,見落とすこともあるので注意する.プロービング 軟骨や半月板などの状態は見るだけでなく,表面をプローブで押すことにより,硬さや表面の滑らかさ,軟骨損傷がある場合にはその深さなどが確認できる.ただし,その際に軟骨表面を傷つけたり,すでに傷ついている軟骨を剥がしてしまわないように十分な注意が必要である.プローブの先端で強く押すのではなく,腹の部分で柔らかく押して軟骨表面の状態を把握する.Point1.関節軟骨面 大腿骨,脛骨,膝蓋骨とも,その関節軟骨は正常では白色の滑らかな表面が観察できる.大腿骨軟骨面は膝関節伸展位付近で膝蓋大腿関節面(図4)が,膝関節を徐々に屈曲することにより,脛骨大腿関節面(図5)の前方部から後方部へ,ほぼ全域を鏡視できる.脛骨軟骨面は半月板に覆われていない部分の鏡視は容易であるが,覆われた部分はプローブで半月板を持ち上げながら観察する(図1).膝蓋骨02関節鏡視で見えるもの①関節軟骨,半月板松本秀男 Hideo Matsumoto■公益財団法人日本スポーツ医学財団理事長
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