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第一章 プロローグ 「視覚障害者は、どうしてお化粧するんですか?」「は?」 私が聞き間違いか勘違いをしているのではないかと言わんばかりに、ディレクターは再び「えーっとですね、視覚障害者はどうしてお化粧されるのですか?」と質問しました。「二回目!?」と思いながらも一応テレビ局と名乗られていましたので、丁寧さを忘れずに「ですから、„女性"だからです」と答えました。 しかし、彼女が満足するような返答ではなかったようで、「うーん……っと、視覚障害者がお化粧されるんですよね?」と尋ねられましたので、「はい、そうですよ!」と軽やかにお返事しました。そうすると、「ですよね! なので、それはなぜですか?」と、質問の意図は同じなのでしょうが、違った表現で繰り返し尋ねます。私からの返答が、彼女の質問の意図する回答とはきっと異なるものなのでしょうが、私は彼女の質問にちゃんと真摯に答えているつもりです。なので、三回目の回答もやっぱり同じなのです。「女性だからです」。これ以上もこれ以下の回答も私にはないのです。 そうすると、「こちらの質問の意味が分かっていますか?」と言わんばかりの様子で、視覚障害者がお化粧をすることが不思議であるかのような質問をするので、これ以上話を続けても埒が明かないと思い、「すみませんが、もっと視覚障害者を理解してから取材に19

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