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 手術を行う側も受ける側も人間である.受ける側は手術前から,術者には計り知れないような緊張に苛まれている.特に手術中は,その緊張はピークに達していると考えられる.術者はそのような状況を判断しながら,適切に治療を行うことが要求される.普段では起こり得ないような異常な血圧上昇や心拍数の増加,予期しないような尿意によるさらなる緊張の増加など,油断すると負の連鎖につながりかねない状況になる.術者はそのような状況を的確に捉えて即座に判断することが要求される.備える 執刀医は手術を患者からの信頼で任されているが,手術で回復させられる程度には限界がある.手術前に入念な説明と患者の納得の上での同意が必要である.完璧に手術を行ったつもりでも,術者は満足,しかし患者は不満足といった状況を作ってはならない. 術前検査は入念に行う.術前検査が不十分であると術中に手術プランを変更せねばならないかもしれない.多くの場合は術前検査をしっかり行うことで防げるが,怠ると手術時間を無駄に延長することとなる.手術前に必要な器具をある程度揃えることも手術時間の短縮に重要である.手術台の上に全部並べるのではなく,使用する可能性がある器具は滅菌したまま近くに備えておいて無駄を省く.低侵襲手術を心掛ける 手術を行うからには手術侵襲を最小限にするように心掛ける.麻酔,切開創の位置,切開方法,切除方法,剝離する範囲や方向など細部にわたっての注意を行う.徹底的な手術が必要とされる場合もあるが,多くはよりよい視機能の回復といった目標に向かうために手術を行っているため,手術を行う量や範囲,手術時間などを総合的に判断しながら治療に望む.手術を完結する すべての症例が予定通りに終了するわけではない.術前検査を入念に行っても予期しない合併症に遭遇する可能性もある.そういった場合でも,信頼の上に手術を患者から任されていることを忘れずに,最後まで治療を完結させる強い気持第1章 私の手術哲学1井上 真の手術哲学第1章1私の手術哲学井上 真の手術哲学10

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