自分にもしてもらいたいことかどうかを考える 眼科医としてのやりがいを最も感じるのは,手術をすることで疾病が治癒したもしくは病態が改善した結果,患者が喜んでくれるときである.したがって,手術自体を行えるということはうれしさでもあり誇りでもあり責任でもある.もちろん自分自身を含め誰しも手術なんて受けたくないわけで,手術以外の代替治療があるのであればそれを選択する.嫌な手術なのに腹を決めて受けてくれるなら,その気持ちに応えるべく全力を尽くすのが務めと考える.手術をするかどうか,手術に際しての方法,また術中にも多くの選択を迫られる局面がある.そのとき,判断の根底に「自分にもしてもらいたいことかどうかを考える」を忘れぬよう意識している.また,白内障手術もしかり,硝子体手術もしかりであるが,新たな手術や手技に取り組む段階で,自らの未熟によりよくない影響が及ぶことに,とてつもないやるせなさを感じる性分である.そのため,この段階から早く脱しようと,上達するための術を貪欲に模索することを繰り返してきた.結果,自分には努力の必要性のみならず工夫することが必要という結論に至っている. 毎日の外来では,手術を受けなくては治らない,あるいは早期の手術でなければ術後視機能に影響する病態の患者に対峙しなくてはならない.当然の責務として,積極的に手術を勧めている.ただ,上述の思いを置き去りにしないよう意識しているつもりである.術前の患者へのinformed consent(IC)では,良きも悪きも必ず自身の経験に基づいた話も混じえるようにしている. 手術施行時に心掛けていることは,重篤な増殖糖尿病網膜症(proliferative diabetic retinopathy; PDR)や増殖硝子体網膜症(proliferative vitreoretinopathy;PVR),重症の外傷でなければ,すなわち黄斑疾患や通常の裂孔原性網膜剝離(rhegmatogenous retinal detachment;RRD),PDRでは,視力の維持・改善はもとより,可能な限りの良好な視力と視機能を得られることを意識している.そのための低侵襲へのこだわりとして,黄斑の膜剝離操作時の侵襲低減の徹底と,出血に対する止血操作時に灌流圧を上げない,すなわち視神経と網膜の循環を維持した通常灌流圧下でのピンポイント止血を特に重視している.これらを遂行す第1章 私の手術哲学2岡野内俊雄の手術哲学第1章2私の手術哲学岡野内俊雄の手術哲学12
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