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ていると知ってしまったからである。 なるほど、だから今までこの手の本がなかったわけだ。 2018年、東京医科大学をはじめとする複数の医学部入試における、女子受験生と浪人生に対する減点が大きな社会問題となった。しかし、当の医師社会からは何の声も上がらなかった。2019年4月、東京大学入学式の上野千鶴子氏のスピーチが、私の迷いを払拭した。医学分野ではなく社会学分野から、疑問を投げかけ続ける人はいるのだ。 医学分野にいるのに足がすくんで動けない自分を恥じ、勇気を持とうと思った。 私は、医師という「生き物」をよく知っている。医師は、感情論には懐疑的だが、患者の診療において、感情を重視する。彼らは医学研究によるエビデンスを重んじ、個々の患者に合わせて活用する。そこで、社会学、経営学、心理学、教育学からのエビデンスを拝借しつつ、数少ない「医師を対象にした」研究からのエビデンスも吟味して、執筆しようと決意した。 協力者が必要だ。 私は、自身が大学院生として所属する、岐阜大学医学教育開発研究センターの大学院生で、総合内科医師の浅川麻里先生に協力を依頼し、コラムをいくつか執筆してもらった。当時、浅川先生は出産を目前に控えていた。そして私は、「もしかしたら、困難な仕事をお願いする絶妙なタイミングかもしれない」と直感で思った。育児期間こそ専門職としてのアイデンティティーの維持が必要であることを、経験からも理論的にも知っていたからだ。情熱と知識量からも、「浅川先生しかいない」と確信していた。 夫の麻酔科医師、赤嶺智教からの絶え間ないエールに、毎日背中を1ミリずつ押され、出版まで前進し続けることができた。学生時代からいつも、

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