10憶、運動、知覚や言語などの要素的な認知機能よりも上位のシステムに位置づけられます。この機能は前頭葉、特に前頭前野の関与が大きいと考えられています4)。社会的行動 人は環境に対応して行動しています。またその行動は自動的行動と意図的行動に大きく2つに分かれます。自動的行動は環境刺激に直接的に誘発されるものですが、意図的行動は、刺激によっては誘発されず、有利か不利かを考慮して行われ、反射的行動は抑制されます。そして適切な行動選択が行われますが、その際、前頭葉が重要な役割を果たしています5)。 社会的行動障害は具体的には、依存性・退行、欲求コントロール低下、感情コントロール低下、対人技能拙劣、固執性、意欲・発動性の低下、抑うつ、感情失禁、その他(引きこもり、脱抑制、被害妄想、徘徊など)といった形で表れます。原因疾患別の高次脳機能障害の発生機序(症状発現のメカニズム)4 前述の高次脳機能に関わる解剖学的システムからみて、広範囲な脳損傷、特に前頭葉や辺縁系の損傷や白質神経線維(脳梁などの半球間をつなぐ交連線維や同側皮質間をつなぐ連合線維)の損傷が高次脳機能障害の発生メカニズムに大きく関与していることがわかります。原因疾患別に発生機序について概説します。脳血管障害 脳梗塞では閉塞した血管の支配領域の脳が、脳出血では出血部位の脳が損傷します。いずれも脳全体からみれば一部分の損傷です。たとえば左前頭葉の言語中枢に出血すれば運動性失語症、右頭頂葉の脳梗塞では半側空間失認、後大脳動脈の閉塞による海馬梗塞や視床梗塞では健忘症がみられます。これらはいずれも巣症状です。 これに対しくも膜下出血の病態は少し違います。くも膜下出血の原因はほとんどが脳動脈瘤の破裂によります。脳動脈瘤が破裂すると頭蓋骨の中の圧力(頭蓋内圧と言います)が急激に上昇します。頭蓋内圧はときに血圧と同じくらいまで上昇しますが、そのとき脳全体に血液が行かなくなります。つまり脳全体が一時的に脳梗塞に近い状態になるわけです(全脳虚血と言います)。さらに出血はくも膜下腔全体に広がり、脳全体を傷害します。このようにくも膜下出血では脳全体が広く損傷されるため、より高次脳機能障害を生じやすい病態と言えます。41
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