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008精神科病棟で出会った認知症の人 二〇〇九(平成二十一)年十月から、千葉県旭市にある「海上寮療養所」という民間精神科病院で、認知症の人に対する精神科訪問診療を始めました。どうして訪問診療を始めることになったのかを説明するために、まずは少し自己紹介をさせてください。 大学卒業後、精神科医となり、統合失調症などの精神疾患の人を診療していた私が、認知症の人の精神科医療に本格的に携わるようになったのは、東京都立松沢病院に勤務していた二〇〇四(平成十六)年のことでした。私が在籍していた頃の都立松沢病院は、常勤の精神科医が三十名以上在籍し、ベッド数が千床以上もある、巨大な公立の精神科病院でした。創立されて百二十年以上の歴史をもつ、日本の代表的な精神科病院の一つです。 二〇〇一(平成十三)年から松沢病院で働いていた私は、高齢者外来などを担当していました。あるとき認知症の人のための精神科病棟を担当していた医師が転職されることになりました。精神科医療の中心は統合失調症1)や感情障害(うつ病、躁うつ病など)などの精神障害です。当時は、認知症の人の精神科医療に興味を持つ人はまだ少なく、高齢者外来を担当していた私に認知症病棟の担当医にならないかと話があったのです。もともと高齢の方々が大好き1)人口の約1%弱に発病する頻度の高い精神疾患。偏見を伴っていた「精神分裂病」という病名が2002年8月に変更されたもの。
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